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嘘ォつきおって。舌ァ一枚しかないぞ

石「この世に未練を残すといかん、てやがらア。情けないね、どうも、いよいよ年貢の納めどきかア、こんなことならもう少しおふくろオ、大事にしとくんだったな。おっかあ、すまねえ、こんなとこで先立つ不幸を許してくれエ、トホホ」

薮「泣くんじゃない。まだ死ぬと決ったもんじゃないんだから。はい、大きく開けて」

石「死ぬと決ってたまるかヨ、ウアーン」
(と泣く)

薮「ウーン、固い歯だな、針が刺さらん」

ア「歯に刺さないでえ、肉に刺したらー」

薮「キミは黙ってなさい・・ウン、そうだな、肉に刺したほうが・・・ウワッ、針が折れた・・・新しいのを持って来なさい。ああ、持って来たか、よろしい。ではもう一度・・・」

ア「センセー、折れたのがまだ刺さってますけどー」

石「エーッ?折れたのが刺さってる?いったいどうしようてんだ、センセー」

薮「騒ぐんじゃない、任せなさい。迎え針をうってやる・・・ヨシ、ヨシ、今度はうまくいった。さあ、どうだ、望みどおり麻酔をうったからには、もう思い残すことはないな。ではそろそろまいろうか」

石「え?そのヤットコで抜くんですかい?俺は釘じゃねえやい、助けてくれ」

薮「ジタバタするでない、往生際の悪い奴だ。エイ、ヤットコ、ウーン、抜けたあ」

石「ワーッ、肉がついてるよ。ドロボー」

薮「このくらいの肉でうろたえるな。ついでだ、こっちの悪いのも抜いてやる」

 てんで、センセー、気合いを入れて引っこ抜くてえと、

石「ウアウア、フガフガ・・・」

薮「なんだおまえは、嘘ォつきおって。舌ァ一枚しかないぞ」

・・・ご退屈さま。

更新日:2009-02-28 14:57:20

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