• 57 / 65 ページ

section10

「あの、なにもない村に嫁いできたのはもう300年も前になるか。侯爵とは名ばかりで、広大な農村以外はなにもないところにいるただの田舎者だったよ。パーティーもなければ歌劇も音楽会もない。2ヶ月も過ぎると退屈で辟易してきた。面白半分で下僕に手を出してみたら、結構いい刺激だったな。その後も従者、馬番、果ては仕えていた執事まで、様々な男が私の虜になった。」

「あんなところでは、それくらいしか楽しみがないというのに、あの侯爵は怒りだした。わたしをあの塔に閉じこめ、食事も水も与えてはくれなかった。なに、体裁を気にして自然死でも狙ったんだろう。」

イザベラはクックと思い出したように笑う。
 不気味さは十分演出されている。それにしても思っていたより話がながいなぁ。動きづらいし。このまま聞いているのも間抜けだよな。

「しかし、不思議なことに私は、1ヶ月も生きていたよ。ある月のきれいな夜、わたしを生かすものの存在に気づいた。」

「ちょっと。泉田くん、なにしてんのよ。」

「得体の知れない奇妙な生き物だったが、それがわたしに語りかけてきたのだ。不思議な感覚だよ。頭の中で声がした。」

「ロープがほどけないかなと思って。」

「そいつは共存しないかと提案してきた。自分を取り込んでくれと。そのときは気味悪く思ったが、話をしている内に興味が沸いた」

「ほどけないの?なにやってんのよ。貸してみて。」

「奴は言うのさ。私と共存できれば永遠の命を与えようと。永遠の若さと、人を操る魔力を。」

「あら。ホントね。マリー、ナイフ貸して。」

「ちょっ!気をつけてくださいよ!」

「なによ!信用しなさいって!」

「人の血を飲めば無限の力と活力を得るだろう。若い女の血は若返らせてくれるだろう。交わればそのものを1日2日は操れる。心臓を半分喰らえば、そのものの半身になり、全部喰らえばそのものの身体をのっとれるだろう。」

「ほら!とれた!」

「ほんとだ。ありがとうございます。」

「・・・っておまえ等人の話を聞け!」

イザベラの怒りはもっともだ。私はバツが悪く目をそらしたが、涼子は違っていた。

暁子をまっすぐに見据える。

「なによ。勝手にしゃべりだしたのはあんたじゃない。」

「おまえが聞いたからだろ?」

「あたしが聞いたのは、あんたが暁子かどうかでしょ。」

暁子の身体をかぶったイザベラが苛立ちを露わに歯ぎしりしながら睨む。

「ほう?それにどんな意味があるんだ?」

「意味はあるわよ。人だったら逮捕だけど、化け物だったら退治になるのよ。知らなかった?」

「ふ。ふふふ・・・あーはっは!」

暁子は狂ったのかと思わせるような声で笑いだした。

「最初から思っていたが、なかなか失礼な奴だな。お前は。」

「失礼はどっち?人の弱みにつけ込んで、勝手に身体乗っ取って、ヨソの国でやりたい放題。人に寄生しなきゃならないなんて、あたしだったら恥ずかしくて生きていけなくなるわね。」

 せっかくの見事な啖呵だったが、涼子のメイドの二人は日本語がわからなかったし、イザベラに至っては怒りに顔を赤くしていた。

この部屋で感銘を受けたのは私だけだったのか。それももったいないな。

「なるほどな。無駄口が過ぎたというわけか。さっそくサシの勝負といこうか。」

「臨むところよ。」

胸を反らして涼子は答えた。

更新日:2012-09-02 01:28:53

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

幻惑都市奇譚~薬師寺涼子の怪奇事件没ファイル1~