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section6

「そう。じゃあやっぱりあの3人以外に暁子と接点のある人物はいない、ということなのね。」

涼子の言葉に丸岡警部は頷く。

翌朝、涼子は参事官室に着くなり、私と丸岡警部を部屋に呼んだ。
もちろん、昨日の報告を聞くためである。

「そりゃ、全員が本当のことを言ってるとはおもわんですよ。でも、各方面の証言と照らし併せてみたが、うまくつかめんでな。まぁ。通訳を要したので、余計細かいところがわかりにくくなったのかもしれんが。」

丸岡警部は続ける。どうやら英語に堪能なスタッフも連れていったらしい。

「丸岡さんは、誰かが嘘ついていると思う?」

涼子は、やはり机の天板に腰掛けて丸岡警部に問いた。

もはや机はイスにとって代わろうとしている。

「嘘はあるでしょうな。『誰が』と問われれば困りますが、刑事の勘ってやつで。」

「そう。ありがと。助かったわ。」

涼子が礼を言うと、丸岡警部はなにか思い出したように付け加えた。

「そうそう。暁子と旧知の仲だった3人が口々に言ってたんですが、暁子は結婚してから変わったと。」

「変わった?」

丸岡警部の言葉に涼子は目の虹彩を変える。

警部は頷き続けた。

「暁子は元々、外見通り大人しい人物だったようですね。留学中も目立たない存在だったとか。それが結婚後、社交的になり明るくなって、辿々しかったドイツ語も流暢に話してるんで驚いた。と言ってましたなぁ。」

私と涼子は顔を見合わせた。

 結婚後、性格が変わるという話は良く聞く。
パートナーを得ることで自信が沸き、積極的になるという話も、逆に拘束されることで、消極的になるという話も。
要はパートナー次第ということだから、こちらはわからなくもない。
しかし挫折し、必要のなくなった語学を勉強するか?普通。いや、暁子が殊更、「生真面目で負けず嫌い」ということなら話は別だが。

丸岡警部は自分で持ってきた茶をすすりながら続ける。

「それで、更に5年前に再度会ったときには、外見は全然変わらないのに、中身は別人のようだったのでちょっと気味が悪かったと言ってましたよ。」

「そう。」涼子は細く形の良い顎に手をかけながら考えていた。

「ありがとう。もういいわ。」

涼子がそう言ったので、丸岡警部と一緒に私も部屋を出ようとすると,
私だけ呼び止められた。

「泉田クン。ちょっと。」

手招きされたので近寄る。

「なんでしょうか。」

 ちょいちょいと、しなやかな指先で更に手招きされるので、内緒話でもあるのかな?別に誰もいないのにな。と思いながらも、すこし屈んで更に顔を近づけた。

 しかし、涼子の次の行動に私はおもわず顔を赤らめ驚いてしまった。

「なっ!ちょっ!なにするんですか!」

 あろうことか、涼子はその細くしなやかな両腕をわたしの首に回してきたのである。

「うるさい!うごくな!」

私は、顔中に広がる涼子の香りにクラクラしながらも大人しくしているしかなかった。

しばらく涼子は、私の首の後ろでなにかやっているようだったが、「できた!」と言ってようやく解放してくれた。

「ペンダント?」

 見ると私の首もとには、小さなシルバー製のクロスのペンダントがかかっている。

「おそろいなのー。」

 楽しそうな表情で、自分も首もとからペンダントを引き出し見せる。それは同じクロスのペンダントだった。

「それなら、シャツに隠れるでしょ?吸血鬼と言えば銀と十字架だからね。お守りだと思ってつけてなさい。」

「はぁ。」私は曖昧に返答した。

本当に吸血鬼だとして、こんな小さなもので効果があるのだろうか。

更新日:2012-08-03 12:15:40

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幻惑都市奇譚~薬師寺涼子の怪奇事件没ファイル1~