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section5

「もう!なんだって事故なんか起こすのよ!こっちは急いでるんだから、検証なんてとっとすませなさいよ!」

涼子はハンドル叩き、猛烈に怒り猛っている。

私たちは中央高速道路の上にいた。順調な走り出しは4、5分で終了し、すぐに事故渋滞に巻き込まれてしまっていたのだ。

渋谷での乱闘の件は、佐々木にはすまないと思いながらも、後日必ず顔を出すということで許してもらい、警視庁に戻り車を取って青梅署にむかっていた。

「そんなに急ぐなら、食事なんてゆっくりとらなきゃよかったじゃないですか。」

「あのね!食事をちゃんと摂らなきゃ、頭に血が回んなくて正しい判断できないでしょ!?食事はだいじなの!」

別にコンビニでも、ファストフードでも良かったものを。だいたい、死体を拝むことになるかもしれないのに度胸がいい。

言っても無駄なので、「はいはい」とだけ答えておいた。

「『はい』は一回でいいの!」

「はい。」

私は助手席の窓を見ながら再度答えなおした。

「事故なんか起こす奴に免許なんか与えるな!」

無茶苦茶なことを言う。

 だいたい、一番事故を起こしそうなのは自分じゃないか。
というより涼子は事故を起こさないだろうが、周りの車は確実に巻き添えを食うだろう。

 それも言っても無駄だし、高速の上じゃ、「運転代わりましょうか?」とも言えなかったので、話題の方を変えることにした。

「本当にヴァンパイアなんでしょうかね?」

米沢の首と山岸の首に残っていた痕。

 一人だけならまだしも、二人目の死体にも同じ痕跡があった。それはヴァンパイアを示すものなのだろうか。

「ヴァンパイアの定義が吸血するものって意味ならね。」

涼子は前方から目を逸らさず答える。

 ヴァンパイアの語源は諸説あるが、リトアニア語の「Wempti=飲む」から由来するという説がある。日本では「吸血鬼」と鬼がついているが、それは鬼の伝説の中に血をすするというのがあるからだ。

確かに米沢は血を抜かれていた。

「ヴァンパイアといえばドラキュラ伯爵ですけど、それより前に同じアイルランド人作家が『カーミラ』を発表してますよね。」

「お!さすが英文科!」

ばかにされているのだろうか?

 吸血鬼で一番有名なのは、ブラム・ストーカーの『ドラキュラ伯爵』であるが、それより30年前に、同じアイルランド人作家、レ・ファニュが女吸血鬼『カーミラ』を発表している。

 同時期に同郷では、余計な憶測を呼びそうであるが、なんてことはない。ストーカーとファニュは同じカレッジの出身で、ストーカーは『カーミラ』を見て『ドラキュラ伯爵』の構想を練ったのである。

 ついでに言えば、それより前に『ヴァンパイア』という作品も発表されており、当時が一種のヴァンパイアラッシュだった。

なぜこんなにイギリスで、同じテーマの作品が立て続けに発表されたのかというと、そのころ、といっても「ドラキュラ伯爵」のちょっと前になるのだが、イギリスでは空前の「ゴシック・ロマンス」ブームだったからである。

更新日:2012-07-30 00:56:14

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