• 14 / 65 ページ

section3

翌朝出勤すると参事官室がにぎやかだった。

巡査である貝塚さとみが一人の男性と楽しそうにしゃべっている。
よく見るとその男は、昨夜現場で会った佐々木であった。

「あ!泉田さん!やっときた!」

別に約束したわけでも、遅刻したわけでもないのにそういわれるのは癪であったので、嫌味も半分「悪かったな」と答えると、笑顔で「いえいえ」と答えられてしまった。

「随分早いが、疑問な点でもあるのか?いつでも電話してくれれば答えたのに」

「いえ、昨夜の報告にきました。」

私はいぶかしく思った。
涼子の手前牧田警部はああ言ったが、報告なんて後回しにするだろうと思っていたのだ。

「もうあれからたいへんだったんすよ。牧田係長は、お二人を気に入っちゃったみたいで、捜査中も会議中もずーっと思いだし笑いするもんだから、緊迫感がなくなるは、本庁の人たちには白い目でみられるはで・・・。」

 あれで、どうやったら気に入られるんだ?牧田警部はずいぶん寛容な人なんだろうか?それとも涼子の本性をまだ知らないだけなのか。

「ともかく、係長が早く捜査報告してやれっていうんで、徹夜明け早々来た次第なんです。」

「そうだったのか。わるかったな。」

先ほど、佐々木の言動に少しムカついた自分を反省した。まったくもって人間は自分勝手である。

私は、自分にもお茶を入れてくれた貝塚さとみに、礼を言ってから、我々の上司の所在を尋ねた。

「たった今こられたみたいです。」

マイセンのカップをお盆に載せている彼女を見て納得する。

なるほど、このお茶はついでか。

 
涼子に佐々木が報告に来たことを告げると、一緒に聞くというので、二人で涼子がいる部屋に入った。

入るなり佐々木はは感嘆の声をあげる。

「ひやぁー!すごいっすね!参事官ともなるとお城みたいな部屋なんすね。」

佐々木が驚くのも無理はない。

涼子の参事官室は彼女曰く、『マリア・テレジアの執務室』を模したもので、マホガニーのディスクにペルシャ絨毯。ビクトリア時代を思わせる高価なソファに、絹のカーテンと豪華絢爛である。

「心配することないわよ。佐々木クン。これはすべてあたしの自費で揃えたものなの。表向きは質素にしていて、裏でウラガネを使いたい放題。私服を肥やしている他の官僚達とは違っていてよ。」

「ホント!ウラガネとはうまいこというわね。」

おーほっほほと高笑いする涼子を、佐々木はなぜかソンケイの眼差しでみていた。

おいおい・・・。

「立派な心がけっすね!さすが薬師寺警視ッス!」

「あら。かわいいこと言うわね。どっかの誰かさんとは大違いだわ。」

ちらっと涼子が私の方をみたので、これ以上話がおかしな方向に行く前に、本題に戻す必要を感じた。

「それで佐々木、報告というのは・・・」

「ああ。そうっすね。」

私が尋ねると、佐々木は、鞄の中からいくつかのファイルを取り出した。
 

更新日:2012-09-06 13:46:38

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook

幻惑都市奇譚~薬師寺涼子の怪奇事件没ファイル1~