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「では始めましょう」
深淵の闇の中から現れいでた騎馬武者たちは全速力で丘を駆け下りていく。
普段ならその足音も城内の兵に届きそうな地鳴りを発しているが先ほどより降り出した大雨がすべてかき消してしまっていた。
「この雨、まさに天の利」
辰ぽんは兜のひさしから滴り落ちている雨露をぬぐい右手にもった軍配を振るった。軍配からは雨露がまとまり地面に大きな音を立てて弾けるがその音さえもかき消されていく。
闇夜で音だけが頼りの野戦において天からの大きな加勢をうけたぽん族は攻撃の手を早めた。
「1撃目着弾!あじらです!被害甚大!勝利してます!」
「よし!折り返し2撃目いくぞ!」
辰ぽんはすぐさま帰還してきた部隊に兵を補充していきながら合戦報告書を確認していった。
「おっと、我が軍団に朱ぽん童子殿の精鋭部隊がいるなw心強い」
暗闇のため共に合流している仲間たちの部隊を確認できず、辰ぽんは唯一報告書にのるスキル発動で確認していたのだ。
【朱ぽん童子】の【武田信虎】が【騎馬隊突撃Lv3】を発動させ、家中随一の大活躍を見せた!
と合戦報告書にある。シークレット特の登場は辰ぽんならずとも心躍るものだがスキルが騎馬隊突撃なのがなんとも「らしい」ところである。

ぽん族でも1,2を争う攻撃力の持ち主、朱ぽん童子。21+22鯖では蚩尤という名で知られている。蚩尤は本名ではない。古来中国より伝わる伝説の暗殺集団に付けられた異名である。ぽん族の仲間はおろか、族長ですらその生い立ちは詳しく知らないということだ。
ただ一つ、誰もが恐怖を覚える圧倒的な攻撃力を除いてベールに包まれていた。

「2撃目、着弾!あじらです!の兵飛びました!半壊!」
伝令が報告書を持ってきた。予定より1撃早い攻撃で兵が剥がれたようだ。さすが合流攻撃だ。帰ってきた部隊の数は8つ。8合流だ。単独防御ではまず手も足も出ないであろう。
「よし、最後だ。折り返しの部隊で、一気にいくぞ」


「辰さん、攻撃をはじめているね。じゃあこっちもはじめよう」
にっぽにあにっぽんも自慢の弓騎馬部隊に攻撃の合図をおくった。
にっぽにあにっぽんはHercherの城に向かい部隊を送った。
合流成功の報告がつぎつぎと上がる。8合流まで合流は伸びた。
今回の奇襲作戦の提案者は先述の辰ぽんである。初日に多数の合流攻撃を避けるために合流参加の可能性のある者や盟主本領に近い本領をもつ同盟員を集中的に叩き、合流や加勢の兵力を削ぐ漸減作戦をとることを提案したのだった。
さらにこの作戦はぽん族の組織体制が同時攻撃を可能にした。
少数精鋭であるぽん族は攻撃の際に誰が指揮とるのかということが決まっていない。
大きな盟主攻防戦はさぶぽん・辰ぽんの軍師2人のいずれかが指揮をとるが多方面に攻撃を繰り出す場合には「軍団長制」を取り入れているのがぽん族の特徴であった。

方面軍を指揮する「軍団長」を決め、すべての指揮権・攻撃権を委ねる制度である。
この制度を取り入れてから多方面への同時侵攻が可能となりぽん族は人数以上の戦闘力を発揮する同盟と変貌を遂げていたのだった。
もうすぐにっぽにあにっぽんの軍団もHercherの城を落とせそうである。
伝説の戦闘民族「ぽん族」。
普段は少数で大同盟に翻弄されている同盟だがまさに今、この模擬戦において彼らを封印していた歴史の呪縛から解き放とうとしていた。

そしてその恐ろしさ身を持って体感しているのは元来ぽん族の同盟員が所属している北条竜鱗衆だというのだから皮肉なものである。

小田原本城の天守閣では騒然となっていた。
次々とあがる本領陥落の報告。
加勢の可能性をさぐり内チャはありえない勢いで更新されていくのも混乱に拍車をかけていた。

盟主、丹波も腕をじっと組み、一点を見つめるほかない。
丹波はことのほか冷静であった。
「焦るのは盟主本領周りにある砦に攻撃が始まってからでいい」
いくつ同盟員の本領が落ちようが勝敗を決するものではないのだ。ならば盟主本領に攻撃がこなければ負けることはないのだ。
逆にこの状況の中、北条竜鱗衆の分国法である「同盟員を守る」ということに忠実に従い、奔走している彼らに頭が下がる思いであった。

「申し上げます。Hercher殿、陥落でござる」
場内がざわめいた。Hercherの城は小田原本城からさほど遠くない。

(次はここかもしれない。)
誰もが恐怖に押し潰されそうな感覚になっていた中、一人立ち上がる者がいたのだった。

更新日:2012-10-31 12:46:12

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戦国IXA戦記 北条竜鱗衆VSぽん族