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「……つまり、そういうことです。このお茶だって本当にここにあるわけじゃありませんよ。私が星矢たちから聞いた日本のお茶をイメージして、我が師シオンと老師でそれを補強しているのをミロも共有しているだけです。あなたがたも腹をくくって、落ち着いてはどうです?」

「すると、私もそのイメージを共有できるのかな?」

「その気になればいいだけですから簡単ですよ。どうぞお座りなさい」

 共有する気満々で進み出た魚座ピスケスのアフロディーテに、ムウはにっこり笑って座布団まですすめた。
 天と地の狭間に輝き誇る美の闘士は、見よう見まねで正座をし、目の前に出された湯呑を見て首をかしげる。

「このカップ、取っ手がないじゃないか」

「こうして両手で持つのじゃ。熱いというイメージを持つと本当に熱いぞ。気をつけろ」

 持ちかたを指導する老師ことライブラの童虎。前聖戦生き残りの二百歳オーバーのくせに、シオンともども、ちゃっかり若い頃の姿のイメージのままでいる。

「今じたばたしてもどうにもなるまい。お前たちも座れ、小僧ども」

 そのシオンは、冥王ハーデスによって蘇った『十八歳当時』の反則年齢のまま、二十歳以上の黄金聖闘士を小僧呼ばわりしてはばからない。
 しかしそこは元教皇の威厳(のイメージ)がなんとなく全員に刷り込まれているので、昔、聖域を飛び出して海界に走ったカノンも含めて全員が、とりあえず従ってしまう。
 シオンとムウがお茶をいれて、童虎とミロがそれを配るが、皆が少なからず茫然自失であるのはもちろんだった。とりわけ悄然と肩を落とすのはカミュである。

「元気を出せ、カミュ」

 ミロが明るい声をかけるが、それがますます親友の心をぐさぐさ突き刺すとは、本人はまったく気づいていない。

「ミロ……」
「情けない声をだすな……あ、いや。お前は熱い茶は苦手だったな? ムウ、すまないがカミュ用に冷たいものを用意して」
「 ―― ミロっ!」

 不意に高い声を上げたカミュは、涙を滂沱と流しながらミロの両肩をがしっとつかんだ。

「な、なんだ? どうしたカミュ?」
「どうしたと訊きたいのは私だ! お前がこのような時に落ち着き払っているなどありえん! アイオリアやカノンより先に、かなわぬとわかっていても拳でも技でも繰り出してまっ先に自爆するのがお前ではなかったのか!? らしくない。らしくないぞ! 私の知っているミロは決してそのような男では……!!」
「そう取り乱すな……落ち着けカミュ。お前こそ、口を開けばクールにと氷河を諭していたくせに、どうしてそうクールになりきれんのだ? まあ、それがお前のいいところなんだが」
「ミロ……私にであっても、お前がそんな言葉をかけるなど……も、もはやこれまでか……」

 尚一層、絶望の色を濃くしたカミュは、きっと唇を噛みしめ、そして立ち上がると、ゆっくりと右手を高く差し上げた。

「……ならば、せめて友であるこのカミュの手で……」
「エクスカリバー!!!!!」


    すかっ!!


 思い詰めたカミュがフリージングコフィンを放とうとする直前、それより速くシュラが手刀を一閃させた。
 だが、触れるものすべてを斬り裂くはずのシュラの聖剣エクスカリバーは、何の抵抗もなく、そのままカミュの姿を素通りしてしまう。

「ふん、やはりな……何もないものは斬れんわけだ。カミュ、お前もいくら技を放ったところで、ここでは何も凍らせるものなどないようだぞ」

 口だけクールのカミュなどより、よほど冷静にシュラは言った。
と、その時。

「なんだね、騒々しい。借りにも教皇と偽教皇の御前であるぞ。静かにしたまえ」

 ふとその声に瞳を上げた教皇シオンと、対照的に「ぐっ…!!」と呻き声を上げた偽教皇サガより、よほど偉そうで傲岸不遜な言葉とともに姿を現したのは、最も神に近い男、そのくせ弱者に対する慈悲の心を持ち合わせぬとうそぶく、乙女座バルゴのシャカだった。

更新日:2012-07-04 14:00:02

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聖闘士星矢 黄金聖闘士復活篇~序奏~