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Chapter.9 黄金聖闘士は聖域に還る
……どこかで、水面に落ちて弾ける雫の音がする。
体を包む暖かな水の流れを感じて、ミロは目を覚ました。
「ミロ……戻ってきてくれたか……」
「……カミュ……?」
先の音は、カミュが落とした涙のものだったのかもしれない。そのひとしずくが、ミロの頬にこぼれて滑り落ち、地上の光を弾いた。
「俺は……」
差し伸べられた友の手にすがり、身を起こしたミロは、同じようにデスマスクの手に支えられて起き上がったアフロディーテの姿を見た。
「……アフロディーテ! 無事か!?」
「何を言う。私もろとも何もかも消し飛ばす気だったくせに」
アフロディーテは、透き通るような微笑と共に言った。
「だが、君らしいな」
「……俺がこうしていられるのだから、お前も大丈夫か……だが、いったいどうなったんだ?」
「君がアンタレスの超新星爆発を起こした瞬間に、ハーデスとポセイドンがその力を別のものに転換させて封印を破り、私たち全員を地上へと引き戻した。相当不満ではあったようだが、さすがに道連れに自爆されてはかなわなかったのだろう。ことにポセイドンは慌てたようだ。それにしても、まさか冥王と海皇をともに力づくで屈服させるとはな」
「全員……?」
問い返したミロの声に、アフロディーテが頷いてみせる。
その視線を追って振り向いたミロの目に、慣れ親しんだはずの、だが、わずかに違和感を抱かせる、凛とした顔が映った。
「アイオリア……?」
「おい、サガとカノンを見間違えるならまだしも、俺とアイオリアの区別がつかんとは、まだ目が覚めきっていないのか?」
そうは言うが、双子座兄弟のように瓜二つとはいかぬまでも、射手座と獅子座の兄弟もまた容貌は実によく似ているのだ。
「あ ―― アイオロスか!?」
「アフロディーテがさっき、『全員』と言ったろう?」
その隣にアイオリアが並び、笑いかける。
並べてみると、アイオロスの方が髪の色が濃いくらいで、いよいよ似ている。挙句に雰囲気までそっくりで、下手をするとサガとカノンのほうが見分けやすい。
「お前も戻れたのか、アイオロス……よかった!」
「ああ……しかし、お前も本当に無茶をするな。まあ、あれだけ追い詰められればハーデスも、ポセイドンも、選択の余地がなかっただろうがな。おかげでこうして、俺まで機に乗じさせてもらえたが」
アイオロスも同様に微笑んだが、それには苦笑の成分がかなり混ざりこんでいた。
そこへ。
「ミロ」
後ろから呼びかけられ、振り向いた刹那。
「 ―― っ!?」
いきなり目の前に拳を振るわれ、息を呑むが、それは眉間に当たる寸前で止まり、一拍置いてから軽く指先で弾かれるにとどまった。
「不意打ちのスカーレットニードル一発分の礼だ」
「カノン……!」
ミロの表情がぱっと輝くのを見て、カノンも釣り込まれて笑いかけたが、横手からブラッディローズの先端が突きつけられ、未発に終わる。
「私も、幻朧魔皇拳の礼をしてやりたいところだが」
アフロディーテはだが、軽く脅かしただけで、すぐにバラを収めて続けた。
「カノン、早速だが、君にポセイドンからの伝言だ」
「伝言?」
「そうだ。近いうちに、海将軍セイレーンのソレントと共に迎えにゆく、と」
「……」
「私たちを封印から解き放ち、肉体を与えて蘇らせた以上、海界冥界ともに、オリンポスへの叛逆と看做されることは避けられない ―― 故に、冥界は108の魔星を持つ冥闘士を、海界は7人の海将軍と共に海闘士をも蘇らせた上でそれぞれ再度招集し、天界の侵攻に備えるとのことだ」
「わかった。ポセイドンも物好きなことだな」
カノンは瞳を伏せて、かすかに笑う。
「既に双子座の黄金聖闘士の座は、サガに返上した。俺が聖域にいても、さほど役立てることもあるまい」
「ゆくか、カノン」
「……ああ。だが少しばかり、これまでできなかった話をすることはできそうだな、サガ」
双子の兄弟は頷き合い、それから、弟のほうはカミュを振り返った。
「今の話だと、お前も少し待てば、アイザックに再会できそうだな」
「……ならば、できるだけ早く氷河を探し出してやりたいものだ」
照れ隠しのように、カミュは瞳をそらしたが、横顔にごくわずかな微笑の影が漂う。
「そういえば、ここは聖域なのか? 氷河や星矢たちはどこにいる?」
ミロは改めてあたりを見回した。
そこは確かに聖域の、十二宮の手前に作られた闘技場であるようだった。だが佇まいが全く違う。
足元を浸す透明な水の流れに、熱のない白く清らかな光が反射し、あたり一体を静寂とともに包み込んでいた。
体を包む暖かな水の流れを感じて、ミロは目を覚ました。
「ミロ……戻ってきてくれたか……」
「……カミュ……?」
先の音は、カミュが落とした涙のものだったのかもしれない。そのひとしずくが、ミロの頬にこぼれて滑り落ち、地上の光を弾いた。
「俺は……」
差し伸べられた友の手にすがり、身を起こしたミロは、同じようにデスマスクの手に支えられて起き上がったアフロディーテの姿を見た。
「……アフロディーテ! 無事か!?」
「何を言う。私もろとも何もかも消し飛ばす気だったくせに」
アフロディーテは、透き通るような微笑と共に言った。
「だが、君らしいな」
「……俺がこうしていられるのだから、お前も大丈夫か……だが、いったいどうなったんだ?」
「君がアンタレスの超新星爆発を起こした瞬間に、ハーデスとポセイドンがその力を別のものに転換させて封印を破り、私たち全員を地上へと引き戻した。相当不満ではあったようだが、さすがに道連れに自爆されてはかなわなかったのだろう。ことにポセイドンは慌てたようだ。それにしても、まさか冥王と海皇をともに力づくで屈服させるとはな」
「全員……?」
問い返したミロの声に、アフロディーテが頷いてみせる。
その視線を追って振り向いたミロの目に、慣れ親しんだはずの、だが、わずかに違和感を抱かせる、凛とした顔が映った。
「アイオリア……?」
「おい、サガとカノンを見間違えるならまだしも、俺とアイオリアの区別がつかんとは、まだ目が覚めきっていないのか?」
そうは言うが、双子座兄弟のように瓜二つとはいかぬまでも、射手座と獅子座の兄弟もまた容貌は実によく似ているのだ。
「あ ―― アイオロスか!?」
「アフロディーテがさっき、『全員』と言ったろう?」
その隣にアイオリアが並び、笑いかける。
並べてみると、アイオロスの方が髪の色が濃いくらいで、いよいよ似ている。挙句に雰囲気までそっくりで、下手をするとサガとカノンのほうが見分けやすい。
「お前も戻れたのか、アイオロス……よかった!」
「ああ……しかし、お前も本当に無茶をするな。まあ、あれだけ追い詰められればハーデスも、ポセイドンも、選択の余地がなかっただろうがな。おかげでこうして、俺まで機に乗じさせてもらえたが」
アイオロスも同様に微笑んだが、それには苦笑の成分がかなり混ざりこんでいた。
そこへ。
「ミロ」
後ろから呼びかけられ、振り向いた刹那。
「 ―― っ!?」
いきなり目の前に拳を振るわれ、息を呑むが、それは眉間に当たる寸前で止まり、一拍置いてから軽く指先で弾かれるにとどまった。
「不意打ちのスカーレットニードル一発分の礼だ」
「カノン……!」
ミロの表情がぱっと輝くのを見て、カノンも釣り込まれて笑いかけたが、横手からブラッディローズの先端が突きつけられ、未発に終わる。
「私も、幻朧魔皇拳の礼をしてやりたいところだが」
アフロディーテはだが、軽く脅かしただけで、すぐにバラを収めて続けた。
「カノン、早速だが、君にポセイドンからの伝言だ」
「伝言?」
「そうだ。近いうちに、海将軍セイレーンのソレントと共に迎えにゆく、と」
「……」
「私たちを封印から解き放ち、肉体を与えて蘇らせた以上、海界冥界ともに、オリンポスへの叛逆と看做されることは避けられない ―― 故に、冥界は108の魔星を持つ冥闘士を、海界は7人の海将軍と共に海闘士をも蘇らせた上でそれぞれ再度招集し、天界の侵攻に備えるとのことだ」
「わかった。ポセイドンも物好きなことだな」
カノンは瞳を伏せて、かすかに笑う。
「既に双子座の黄金聖闘士の座は、サガに返上した。俺が聖域にいても、さほど役立てることもあるまい」
「ゆくか、カノン」
「……ああ。だが少しばかり、これまでできなかった話をすることはできそうだな、サガ」
双子の兄弟は頷き合い、それから、弟のほうはカミュを振り返った。
「今の話だと、お前も少し待てば、アイザックに再会できそうだな」
「……ならば、できるだけ早く氷河を探し出してやりたいものだ」
照れ隠しのように、カミュは瞳をそらしたが、横顔にごくわずかな微笑の影が漂う。
「そういえば、ここは聖域なのか? 氷河や星矢たちはどこにいる?」
ミロは改めてあたりを見回した。
そこは確かに聖域の、十二宮の手前に作られた闘技場であるようだった。だが佇まいが全く違う。
足元を浸す透明な水の流れに、熱のない白く清らかな光が反射し、あたり一体を静寂とともに包み込んでいた。
更新日:2013-01-01 03:03:48