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Chapter.7 蟹座は開き直り、水瓶座はやはり悩み続ける
「あのなぁ……」
デスマスクが聞えよがしに言ったのは、あるいは展開の重苦しさに耐えかねてだったかもしれない。
「……ミロの顔で偉そうなことを言われると、シャカのお題目やムウの毒舌なんかより、ずっと気に障るのは俺だけか?」
「それを言って欲しくはなかったぞデスマスク……」
げんなりした様子で、だが同意してしまったのはアイオリアだった。
「だが一番気に障っているのは、ミロ本人だろうがな……」
「アフロディーテもだがな。あいつら、なにをおとなしくしてるんだ……まさか本当にハーデスやポセイドンに取り込まれたわけじゃないだろうな?」
「わからん……あの二人なら大丈夫だと思うが……」
さすがのアイオリアも、ここでうかつに手を出すわけにはいかない。
だが彼の自制心も、そろそろ限界に近かった。
「友を案じるその心に免じて教えてやろう。この蠍座の黄金聖闘士は、さすがに我が宿座たる冥王星を支配星に持つだけのことはある。余の魂に喰い尽くされもせず、意識の下で抗っているようだ。魚座の黄金聖闘士もまた同じ。いよいよ、ただ封じるだけには惜しい者どもであるぞ」
そのアイオリアを振り返り、ハーデスが答える。
「そなたら黄金聖闘士はもとより、青銅ながらペガサスに至っては、さすがは【神殺し】よ。余の呪いの剣インビジブル・ソードを受けながら、アテナを地上に取り戻そうと、アルテミスのもとへ向かっている」
「ペガサス……星矢が戦っているのか!?」
「では、他の四人の仲間たちも!」
ハーデスが口にした名は、黄金聖闘士たちの闘志を、一気に臨界点まで引き上げた。
「ならば、我々もこうしている訳にはいかん。ハーデス、ポセイドン! なんとしてもお前たちの力を貸してもらうぞ!この封印を破り、地上へ戻してもらう!」
アイオリアが拳を固めて、鋭く叫ぶ。
「どうするつもりだ? 我々は不死なる神。まして神の力をもって作り出されたこの封印空間では、そなたら聖闘士の力である小宇宙もほとんど封じられているとわからぬのか?」
「我らを呼び出すために、空間にほんのわずかの亀裂を生じさせたことは褒めてやろう。だがそれも、アテナの力が弱まったために、このポセイドンとハーデスを封じきれなくなっただけのこと。でなければお前たちの力など――」
言いかけたポセイドンは、不意に言葉を止め、傍らのハーデスを振り返った。
「……ハーデス? 何か起こったのか?」
「く……は、離れよ、ポセイドン……!その魂を手放せ……!!」
「……!?」
異変を告げるハーデスの声に、ポセイドンはアフロディーテの魂との結合を切り離そうとした。
だが ―― 。
「ば、ばかな……!人間の魂に、私が捕縛されているだと!?」
驚愕の表情が、本来アフロディーテのものである美しい顔に広がった。だがそれは一瞬で掻き消えると、かわりに、苦痛の色を押し隠した微笑が浮かぶ。
「これで……いいのだな……」
「アフロディーテ!?」
「さ、さあ、ミロ……聞こえているだろう……私ごと、ポセイドンの魂に、スカーレットニードルを撃ち込むがいい……ハーデスの力を利用してな……」
「……あ、アフロディー……テ……」
呼びかけに答えようとしたミロは、だが、さすがに相手がハーデスであるだけに、そう簡単には動きが取れない。
「ならば……私から、行くか……ハーデスにはたっぷり、貸しがある……」
「み、見くびるな……たとえ、ポセイドンの力の……上乗せが…あっても、お前では……俺には勝てん……」
続けるうちに、次第にミロの意志がハーデスを上回り、髪の色ももとに戻りはじめる。
震えながら、だが確実に抵抗を打ち破りつつ持ち上がったその指先に、赤く輝く光点が生まれ、脈動した。
「受けてみるか……真紅の衝撃を……」
「君も……私のバラに一度くらいは射抜かれるのも、悪くはあるまい……」
アフロディーテの手元に、その言葉と共に純白のバラが現れる。
だが、両者の技が放たれようとした、その瞬間。
「そこまでだっ!」
鋭い制止の声と共に、二人の間に割り込んだのはデスマスクだった。
デスマスクが聞えよがしに言ったのは、あるいは展開の重苦しさに耐えかねてだったかもしれない。
「……ミロの顔で偉そうなことを言われると、シャカのお題目やムウの毒舌なんかより、ずっと気に障るのは俺だけか?」
「それを言って欲しくはなかったぞデスマスク……」
げんなりした様子で、だが同意してしまったのはアイオリアだった。
「だが一番気に障っているのは、ミロ本人だろうがな……」
「アフロディーテもだがな。あいつら、なにをおとなしくしてるんだ……まさか本当にハーデスやポセイドンに取り込まれたわけじゃないだろうな?」
「わからん……あの二人なら大丈夫だと思うが……」
さすがのアイオリアも、ここでうかつに手を出すわけにはいかない。
だが彼の自制心も、そろそろ限界に近かった。
「友を案じるその心に免じて教えてやろう。この蠍座の黄金聖闘士は、さすがに我が宿座たる冥王星を支配星に持つだけのことはある。余の魂に喰い尽くされもせず、意識の下で抗っているようだ。魚座の黄金聖闘士もまた同じ。いよいよ、ただ封じるだけには惜しい者どもであるぞ」
そのアイオリアを振り返り、ハーデスが答える。
「そなたら黄金聖闘士はもとより、青銅ながらペガサスに至っては、さすがは【神殺し】よ。余の呪いの剣インビジブル・ソードを受けながら、アテナを地上に取り戻そうと、アルテミスのもとへ向かっている」
「ペガサス……星矢が戦っているのか!?」
「では、他の四人の仲間たちも!」
ハーデスが口にした名は、黄金聖闘士たちの闘志を、一気に臨界点まで引き上げた。
「ならば、我々もこうしている訳にはいかん。ハーデス、ポセイドン! なんとしてもお前たちの力を貸してもらうぞ!この封印を破り、地上へ戻してもらう!」
アイオリアが拳を固めて、鋭く叫ぶ。
「どうするつもりだ? 我々は不死なる神。まして神の力をもって作り出されたこの封印空間では、そなたら聖闘士の力である小宇宙もほとんど封じられているとわからぬのか?」
「我らを呼び出すために、空間にほんのわずかの亀裂を生じさせたことは褒めてやろう。だがそれも、アテナの力が弱まったために、このポセイドンとハーデスを封じきれなくなっただけのこと。でなければお前たちの力など――」
言いかけたポセイドンは、不意に言葉を止め、傍らのハーデスを振り返った。
「……ハーデス? 何か起こったのか?」
「く……は、離れよ、ポセイドン……!その魂を手放せ……!!」
「……!?」
異変を告げるハーデスの声に、ポセイドンはアフロディーテの魂との結合を切り離そうとした。
だが ―― 。
「ば、ばかな……!人間の魂に、私が捕縛されているだと!?」
驚愕の表情が、本来アフロディーテのものである美しい顔に広がった。だがそれは一瞬で掻き消えると、かわりに、苦痛の色を押し隠した微笑が浮かぶ。
「これで……いいのだな……」
「アフロディーテ!?」
「さ、さあ、ミロ……聞こえているだろう……私ごと、ポセイドンの魂に、スカーレットニードルを撃ち込むがいい……ハーデスの力を利用してな……」
「……あ、アフロディー……テ……」
呼びかけに答えようとしたミロは、だが、さすがに相手がハーデスであるだけに、そう簡単には動きが取れない。
「ならば……私から、行くか……ハーデスにはたっぷり、貸しがある……」
「み、見くびるな……たとえ、ポセイドンの力の……上乗せが…あっても、お前では……俺には勝てん……」
続けるうちに、次第にミロの意志がハーデスを上回り、髪の色ももとに戻りはじめる。
震えながら、だが確実に抵抗を打ち破りつつ持ち上がったその指先に、赤く輝く光点が生まれ、脈動した。
「受けてみるか……真紅の衝撃を……」
「君も……私のバラに一度くらいは射抜かれるのも、悪くはあるまい……」
アフロディーテの手元に、その言葉と共に純白のバラが現れる。
だが、両者の技が放たれようとした、その瞬間。
「そこまでだっ!」
鋭い制止の声と共に、二人の間に割り込んだのはデスマスクだった。
更新日:2012-07-05 01:37:13