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「カノン……お前……」

 彼の言葉を聞いていたサガが、震える息を吐いた。

「勘違いするなよ、サガ。俺はお前を完全に許したわけじゃない。だが俺とお前が周りを巻き込んで、延々と兄弟喧嘩を続けていたところで、何も得るものはないと思っただけだ」

 兄に対しては、どこまでも意地を張り通すカノンだった。

「確かに人とは愚かなものだ。それに関しては否定しないが、ならば神々が人の世界にいちいち干渉するのも、人間にとっては迷惑きわまる。滅ぶなら滅ぶでかまわんが、それは神の裁きを受けてではなく、人間自身の弱さや愚かさによってであるべきだろう」
「神の手駒でしかない人間が、それこそ不遜であり、傲慢だとはわからぬようだな」
「不遜も傲慢もおおいに結構だ。それこそが人間である証だからな。他の奴は知らんが、俺はそれを手放すつもりはない」
「そろそろやめたまえ、カノン」

 じりじりと発火点に近づいてきたカノンの様子を見かねたらしく、傲岸不遜では他者の追随を許さないはずのシャカが、制止の言葉を投げかける。

「ポセイドンよ、非礼は詫びる」
「……おい、シャカ!」
「退きたまえ。君にまかせていると、ここで二柱の神と我々の全面対決になりかねん」
「全面対決とは、面白いことを言う。そうする覚悟もある、ということか」
「そのようなことにならねばよい、とは願いますが」

 カノンを止めておきながら、ポセイドンの挑発を真っ向受け止めるシャカも、神仏の生まれ変わりを自称する男、どこまで行っても謙遜や従順とは無縁であった。
 なによりも、しっかり開眼して、これまた譲歩を拒む姿勢を見せつけている。

「しかし、カノンも言ったように、神がいと高き存在であるならば、大いなる慈悲をもって人を赦し、導きたもうことこそ神の御業」

 お前が言うか!!!!!!!

 ――と、絶叫されてもおかしくはなかったのだが、誰も突っ込めなかったのは、よりにもよってシャカの口から出るとは信じられない単語に、あっけにとられてしまったからだった。

「なるほど、黄金聖闘士にもいろいろいると見える。それで、お前は我々に慈悲を請うのか?」
「さて……請われてようやくかける慈悲が、慈悲の名に値するか」
「なに?」
「敢えて申し上げる。アテナは慈悲などというものを超え、無償の愛を人々にお与えくださっている。故に我らはアテナを唯一の女神と信じ、これまで戦ってきた。同じことがアルテミスに可能であると言うのならば、生き残った白銀や青銅の聖闘士たちが、これからはアルテミスに付き従うのもまた正しい。何も咎められる振る舞いではあるまい」
「……ほう?」
「アルテミスの方が、アテナよりも地上を治めるにふさわしい女神であると証立てていただければ、我々も、生き死にの理を曲げてまで、人の世へ戻せとは望まない。貴方の統べる冥界にて裁きを受けるも用意もあろう、ハーデスよ」

 シャカはハーデスに方向を転じて言った。

「言ったはずだ。余は、他の神々と事を構えるつもりはないと」
「我々も、人間を滅ぼそうなどと企てなければ、貴方がたに歯向かうつもりはないのだ。だが」
「だが?」
「教えていただきたい。アルテミスは、アテナ同様、地上の平和を守るために降臨したものか? あるいは、貴方がたのように人間を粛清しようとしているのか?」

 シャカは尋ねたが、それはしばしの沈黙と、冷笑によって報われた。

「答えるまでもない」
「やはり、神々はあくまでも人間の滅亡を望むか……」
「黄道十二星座の支配星を通じ、オリンポスやティターンの神々の祝福をも受けし黄金聖闘士よ」

 ハーデスは重々しく告げる。

「そなたらがアテナではなく、その支配星の導くそれぞれの神に忠誠を誓うならば、余とて英雄を遇する道は知っている。そなたらをこの封印から解き放つばかりではなく、永遠の命をさずけて天界へ迎え入れてやってもよいのだぞ?」
「我らは人だ。故に、不死の神々に並ぶことは望まん。それはハーデス、貴方が一番良くおわかりのはずだ」

 シャカに代わってシオンが答える。
 ハーデスは冷笑ではなく、今度は憐れむかのような笑みとともに言った。

「そのようだな……愚かなことを。あの時素直にアテナの首を余に差し出しておれば、少なくとも教皇よ、そなたと魚座、蟹座、山羊座、水瓶座、そして双子座の一方は、このように封印などされず、我が冥界において永久の安らぎに憩うこともできたであろうに」

更新日:2012-07-05 00:38:33

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