- 7 / 7 ページ
3 公園のランチ
二人は教会を出て、いつもの公園を横切った。
「ミカ、家の人いるのか。」
「仕事でいない。妹は弁当もって部活行ったし。」
「じゃあローソンでパンでも買って食うか。」
「衿也んちは。」
「いない。安息日だけど親父は日蓮宗だからな。お袋は病院だし。」
二人でコンビニエンスストアに入り、適当なパンを買った。
公園に戻って座り、薔薇の茂みの近くのベンチでパンのつつみをあけた。
ひるどきの広い公園はのどかに晴れていたが、
ほかに人はいなかった。
寂れた団地だ、いつもそうだった。季節もまだ少し寒い。
それでも野薔薇の茂みは雑草を取り払われ、
芝生は刈り込んである。
手入れされた公園だった。
「…衿也、」
「うん?」
「…お母さんのこと、ごめんな、…なんだか、衿也が…
俺と縁を切りたがってるようなきがして…それで…」
「…別に縁切りたいから洗礼うけたわけじゃないよ。
俺もたまには、お袋のこと誰かに祈りたくなるじゃない、
だから神様がほしかっただけさ。」
「…」俺よりも、と、いう言葉を三香矢は飲み込んだ。
衿也はパンをかじって言った。
「俺は、教会はまもなく同性愛に理解を示すと思ってるんだけどなあ。
時代の流れってもんだろう。」
「…」
「…でもまあ、ミカの言うことも一理あるとはおもうけど…」
三香矢は黙って飲み物にストローをさした。
甘いカフェオレ。コーヒーの香りが口にあふれる。
「…ミカ、神様はいろんなものをつくった。
世界とか、花とか、動物とか。悪魔やら、天使やら、人間も。
…同性愛者も。」
三香矢は顔をあげた。
衿也はもういちど言った。
「同性愛者も、神が作りたもうた。生まれつきそうなら、なおさらだ。」
「…」
「ミカが言ってたような神父はまあ、悪いやつだと思うけど…
俺たちが仲いいのは、そんなに悪いことかな?」
「…」
「ミカのこと、親友以上だとおもってるし、
『兄弟』だと思ってるし…
男同士でも人を愛する気持ちにかわりないとおもうよ。
イエスは言ったじゃないか、
互いに愛し合いなさいって。
そりゃキスして裸で寝て…って意味じゃないとはおもうけど…
愛にそれが付随したとたん、地獄の業火に投げ込むかな、あの人が。」
「…」
「信仰は賭けだよ、ミカ。」
衿也はそういうと、暖かいレモンの飲み物を飲んだ。
「…心配するなよ、ミカ。
ダメだったとしても地獄に落ちるのは俺で、お前じゃないんだから。」
「俺に、お前を地獄に落とす誘惑をする悪魔になれって?」
「悪魔でも天使でもないさ。
人間だよ。ただの人間。お前も俺もね。罪深いワタシの一人、さ。
それでも神様は、人間が幸せでいることを望む。
俺たちも、幸せでいよう。それが…天の望みだよ。
キリスト教徒だから大罪だとか、誘惑する悪魔だとか、
お前が重荷を背負うな。
洗礼を受けたのは俺なんだから。」
衿也はそういうと、手を伸ばして指先で三香矢のほほにさわり、
自分のほうに向かせた。
そして首を伸ばすと、ちょっとキスした。
「…卓球して、お茶飲んで、おやつ食べて…
軽やかに行こうぜ、三香矢。
いつか教会で、ダブルタキシードの結婚式が行われる日まで。」
「そんな日はこないよ。」
「ならずっと永久に、だ。」
三香矢は衿也を抱きしめて、泣いた。
---*---*---*---
Thanks.
19ra
20120628
---*---*---*---
「ミカ、家の人いるのか。」
「仕事でいない。妹は弁当もって部活行ったし。」
「じゃあローソンでパンでも買って食うか。」
「衿也んちは。」
「いない。安息日だけど親父は日蓮宗だからな。お袋は病院だし。」
二人でコンビニエンスストアに入り、適当なパンを買った。
公園に戻って座り、薔薇の茂みの近くのベンチでパンのつつみをあけた。
ひるどきの広い公園はのどかに晴れていたが、
ほかに人はいなかった。
寂れた団地だ、いつもそうだった。季節もまだ少し寒い。
それでも野薔薇の茂みは雑草を取り払われ、
芝生は刈り込んである。
手入れされた公園だった。
「…衿也、」
「うん?」
「…お母さんのこと、ごめんな、…なんだか、衿也が…
俺と縁を切りたがってるようなきがして…それで…」
「…別に縁切りたいから洗礼うけたわけじゃないよ。
俺もたまには、お袋のこと誰かに祈りたくなるじゃない、
だから神様がほしかっただけさ。」
「…」俺よりも、と、いう言葉を三香矢は飲み込んだ。
衿也はパンをかじって言った。
「俺は、教会はまもなく同性愛に理解を示すと思ってるんだけどなあ。
時代の流れってもんだろう。」
「…」
「…でもまあ、ミカの言うことも一理あるとはおもうけど…」
三香矢は黙って飲み物にストローをさした。
甘いカフェオレ。コーヒーの香りが口にあふれる。
「…ミカ、神様はいろんなものをつくった。
世界とか、花とか、動物とか。悪魔やら、天使やら、人間も。
…同性愛者も。」
三香矢は顔をあげた。
衿也はもういちど言った。
「同性愛者も、神が作りたもうた。生まれつきそうなら、なおさらだ。」
「…」
「ミカが言ってたような神父はまあ、悪いやつだと思うけど…
俺たちが仲いいのは、そんなに悪いことかな?」
「…」
「ミカのこと、親友以上だとおもってるし、
『兄弟』だと思ってるし…
男同士でも人を愛する気持ちにかわりないとおもうよ。
イエスは言ったじゃないか、
互いに愛し合いなさいって。
そりゃキスして裸で寝て…って意味じゃないとはおもうけど…
愛にそれが付随したとたん、地獄の業火に投げ込むかな、あの人が。」
「…」
「信仰は賭けだよ、ミカ。」
衿也はそういうと、暖かいレモンの飲み物を飲んだ。
「…心配するなよ、ミカ。
ダメだったとしても地獄に落ちるのは俺で、お前じゃないんだから。」
「俺に、お前を地獄に落とす誘惑をする悪魔になれって?」
「悪魔でも天使でもないさ。
人間だよ。ただの人間。お前も俺もね。罪深いワタシの一人、さ。
それでも神様は、人間が幸せでいることを望む。
俺たちも、幸せでいよう。それが…天の望みだよ。
キリスト教徒だから大罪だとか、誘惑する悪魔だとか、
お前が重荷を背負うな。
洗礼を受けたのは俺なんだから。」
衿也はそういうと、手を伸ばして指先で三香矢のほほにさわり、
自分のほうに向かせた。
そして首を伸ばすと、ちょっとキスした。
「…卓球して、お茶飲んで、おやつ食べて…
軽やかに行こうぜ、三香矢。
いつか教会で、ダブルタキシードの結婚式が行われる日まで。」
「そんな日はこないよ。」
「ならずっと永久に、だ。」
三香矢は衿也を抱きしめて、泣いた。
---*---*---*---
Thanks.
19ra
20120628
---*---*---*---
更新日:2012-06-28 21:15:00