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2 卓球


たまにはミサに出てみようか、と
次の週、三香矢は思った。

信徒でなくてもミサには出られる。
ただ、聖体拝領という、ミサの中心的儀式で
ちいさなせんべいみたいなものがもらえないだけだ。
もらえないかわりに、神父さまが祝福をしてくれる。

ミサは何も難しいことはない。
たったり座ったりして、歌を歌って、人が聖書を読むのをきいて、
みんながお祈りしているのを見ていればいい。
小学生くらいのころ、親につれられてよく来ていたから知っている。

三香矢は別に神様がきらいなわけではない。
ことが公けになったら、
教会が三香矢をきらいになるというだけの話だ。
まだきらわれてすらいない。

父と子でもうまくいかない家族もある。
天のいと高きところにまします神とうまくいかない人の子もいるのだ。

教会にいってみると、ミサはもうはじまっていて、
衿也が聖書を読み上げていた。
三香矢は末席にすわり、黙って首をたれた。

「三香矢くんも洗礼うけるの?」

ミサのあとおばあさんにきかれた。

「いや、まだ受けない。」
「衿也くんもうけたし、うければいいのに。
天国にいきましょ、みんなで。」

おばあさんは冗談めかして言った。
三香矢は手をふって笑った。

「俺なんてどうせ地獄いきだよ。」
「あら、大丈夫よ、悔い改めれば。」
「あっ、コーヒー飲もうかな、久しぶり。」
「お菓子もたべなさい。いっぱいたべなさい、若いんだから。」

おばあさんは優しくそういってくれた。

聖堂の隣の部屋でみんなでインスタントコーヒーを飲んでいると、
当たり前の顔をして衿也がとなりにすわった。

「俺の朗読、どうだった。」
「上手かったよ。」

どうということもなく、三香矢は応えた。
衿也はコーヒーに砂糖を混ぜ、菓子を手に取った。

「三香矢もクリスマスごろ洗礼か?」
「…うけないよ。…今日の菓子、豪勢だな。」
「『菓子の森』の旦那さんが来ているんだよ。」
「ああ、あそこ信者さんだもんな。うまい。」

三香矢は甘い菓子の包みをあけて、
ぱくりと食べた。
口の中でほろほろと溶けていく洋菓子は、
向かいに座るヒゲのおっさんが作ったとはとうてい思えない繊細さだった。

「終わったら卓球しようぜ。昼まで。」
「いいよ。」

…あんなことがあったのに衿也は普通だった。
三香矢も無理やり、普通を装った。

更新日:2012-06-28 16:26:49

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