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白い布に包まれた白木の箱、修二はそれを大事に抱えたまま警察署を出た。
一度は結婚まで考えた女だ。
すでにその温もりは失せていたが、修二には木箱を通じてその温かさを感じていた。
決して気のせいでは無い。
思い起こせば、実に心温かな女であった。
彼が知る由紀は、家庭的な女であり、この様な死に方をする女では無かった。
遺骨を抱きながら、彼が思う事はただ一つだ。
それは、何故由紀が自分の前から突然姿を消したのかだ。
その訳が知りたかった。
これまでは由紀の一方的な心変わりだと思い、自分なりに心の整理をし、吹っ切ったつもりでいた。
だが警察で教えられた事は、修二が考えていたものと明らかに違っていた。
由紀は、彼との思い出を実に大事にしていた。
そればかりか、同じ職場で働いていた頃を忘れてはいなかった。
捨て切れなかった名刺、それがその事を物語っている気がする。
修二は、由紀が住んでいたマンションの保証人にもなっている人物の、名前と住所を吾妻から教えてもらった。
もしかしたら、この人物が何か知っているかもしれないと思ったからだ。
メモには、
<後藤 房子  新潟市東区秋葉通り**  スナック「蓮」 >
と書かれてある。
「蓮」はその人物が営んでいるスナックで、由紀は如何やらそこで働いていたらしい。
修二はひとまず市内のホテルに部屋を確保すると、早速その店を訪ねる事にした。

更新日:2012-06-28 08:09:58

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