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「失礼しました、私、菅谷と言います。先程中央警察署に行って来ました。」
警察と言っただけで彼女にも思い当たる事が有る様で、
「警察・・って言うと、もしかして由紀ちゃんの件で?」
房子の口から由紀の名が出た。
「はい、今村由紀さんの遺骨を引き取って来ました。」
修二の言葉を聞くと、それまでの房子とは顔の表情が変わった。
探る様な目が、優しいものに変わった。
「さっき吾妻さんから電話が有ったのよ。由紀ちゃんの遺骨が引き取られたからって・・。 そう・・、彼方が・・。」
納得出来た様な顔を見せた。
「そうですか、吾妻さんから・・。なら話し易いです。」
「正直言うけど、吾妻さん、由紀ちゃんの遺体、私に引き取れて言って来たのよ。でも私断った・・。そんな筋合いじゃ有りませんってね。僅かの間働いて貰っただけで、そんな事までする義務が有るのかってね?」
少し話し方が楽になったと感じた。
「由紀ちゃんって・・、あの由紀ちゃん?」
先程の客が二人の会話に割って来た。
「ゴンちゃん、確か由紀ちゃんの御贔屓だったわよね。」
「そう、由紀ちゃんの? 由紀ちゃん可哀想な事したよね。あの娘本当に良い子だったよ、本当にネ。なあ~、房ちゃん?」
房子は男の問いに合わせる様に頷いた。
「ええ、本当に残念だったわ、うちでは人気者だったから・・。」
房子の言っている事は満更嘘でもなさそうだ。
「良かったら、由紀の話聞かせてもらえませんか?」
修二が「由紀」と呼び捨てにした事で、房子は二人の関係をそれなりに理解した様だった。

房子は、修二のグラスにビールを注ぎながら、
「半年くらい前だったかしら・・? ゴンちゃん、確かその位前よね?」
房子は、ゴンちゃんと呼ばれたその男に同意を求めた。
「そうだな・・それ位前だったかなあ~?」
ゴンちゃんもそれを認めた。
「いきなりそのドアから入って来て、此処で働かせて貰えないかって言うのよ。」
房子はその時の事を思い出すかの様、修二に話しはじめた。
「丁度一人雇いたいと思っている時だったから、良い娘だったら雇っても良いかなとは思ったのね、それで一応話を訊いてみようかと・・。」
「いわゆる面接と言うものですなあ~。」
ゴンちゃんが横から口を挟むと、房子が手を振ってそれを制した。
「そんな大袈裟なものじゃなくて、働く条件とかまあいろいろ有るでしょう?」
房子は多分人物を知りたいと思ったのだろう・・、修二は勝手にそう解釈した。
「で・・、どうでした?」
「それがお金はいくらでも良いと言うのよ? ただ住む処を世話してくれないかってね?」
如何やら由紀はこの町に流れて来たのだろう。
何とかこの町で暮らせないものか、それを考えてこの店を訪ねた様だ。
「話して見ると、言葉使いは悪くないし、器量だってネ、だから即決しちゃったわ。」
房子は由紀を近くの不動産屋へ連れて行って、住む場所を探す事にした。
敷金は房子が立て替え、不動産屋とは顔見知りでも有り、礼金は無しにしてくれた。
大きめなバック一つだけで、荷物らしい荷物も無く、直ぐその部屋に落ち着くと、その晩から房子の店を手伝い始めた。

更新日:2012-06-28 08:12:29

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