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旅館へGO

『え〜あちらに見えますのが、山でございます。
そして、あちらに見えますのが、海でございます』
ゆりが笑顔でバスガイドっぽく説明している。
『山』や『海』ということしか伝わらないが。

そんなわけで、戦線メンバーだった彼らは貸し切りバスに乗り、ちょっと山を登った所にある旅館へと向かっていた。
ちなみに割り勘なのだが、TKがかなりの金額を負担していた。
TKは退院した後、ダンサーとしてデビューし、小さな教室も開いた結果、そこそこの金持ちになったらしい。

数日前、日向が来たのはコレを伝えるというのもあった。
「秀樹君、私スッゴい楽しみ〜っ!」
「はしゃぎすぎだっつの」
音無の前の座席の二人は楽しそうに話している。
かたや音無と岩沢はというと……。

「……う、ぅ……」
「………まさみ〜、大丈夫か〜?」

音無が背中をさすっている。
そんなわけだ。
つまり、彼女が車酔いしているのだ。唇が青くなっている。
他にも2〜3人ほど車酔いしており、車内は思ったより活気が無かった。

『あんたらさ…、もうちょい頑張りなさいよっ。
あと10分くらいだからさ〜』

合計で約1時間乗ったことになる。
それに加えて道がコンクリートではないのでバスはガタガタ揺れる。
やはりそんな中でじっと座っているのはキツイのだろう。
「10分…?
10分って…何分だ?」
岩沢が俯きながら呟く。
頭の中も掻き回されたのか、よくわからないことをブツブツ言い始めた。
音無はただ、背中をさすり続ける。

***************

『とうちゃ〜く!
よしみんな、降りるわよ〜っ』

旅館に着き、笑顔でゆりがバスを降りる。
それに続いて、メンバー達が降りていく…。
「まさみ、着いたぞ?」
音無が背中をさすりながら岩沢の顔を覗き込む。
軽く生気を失っているように見えるが…彼女は音無の言葉に小さく頷き、フラフラと立ち上がると、歩き始めた。
音無は彼女と共にバスを降りる。

「あぁ…空気、空気がうまい……っ」

岩沢の声が震えている。
音無が苦笑いしていると、車内から叫び声が聞こえてきた…。

「うわぁ!野田がぶちまけたぞっ!!」
「テメ!せめて降りてから吐けよっ!」
「わ、私もヤバイです……っ」
「だれか!俺達を助けてくれぇ!」

降りていないメンバーは、藤巻と野田と松下とユイと日向……。
音無はバスに向かって合掌した。

更新日:2012-07-31 02:55:28

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