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現実

音無は自然と目を覚ました。
岩沢はまだ眠っている。
その綺麗な寝顔にドキリとしながらも、彼女の手を離し、ゆっくり起こさないように離れていく。
出掛ける一時間ほど前に勉強をする。
やはり勉強はどれだけしても、し足りない。
だが、あの世界でバカなことをやって、忘れたかなと思いながら勉強していたら、それほどでもなかった。
「あ、れ…?
ゴメン…おはよう?」
20分ほど勉強をしたところで、岩沢が目を覚ました。
寝ぼけて、あまり意識がはっきりしていないのか、首を傾げながら謝ったりしている。
「おはよう。
別に謝ることはないから、とりあえず顔洗ってこい。
わるいけど…軽い朝食を作ってくれると嬉しい」
勉強に夢中になりすぎて、朝ごはんを作るのをすっかり忘れていた音無だった。
岩沢は、ん〜…、と目を擦りながら洗面所へ向かった。
そんな姿を見ていると、可愛くも思い、面白くも思った。
「ホントに、まさみは普通だよな…」
クールビューティと言われていた頃の少女を思い出す。
今ではクールな部分はすっかり無くなっている。
たぶん、半分以上はこんな感じなのだろう。
クールな部分は、そんな彼女の数多い一面の一つにすぎない。

「出来たぞ〜」

10分経たないくらいで、岩沢は料理を作り終わり、音無に差し出した。
ベーコンエッグに白ご飯だ。
ご飯は昨日の炊飯器の中にあった残りだ。
「他にオカズを作りたかったけど…材料が」
冷蔵庫の中身にはあまり余裕が無いみたいだ。
音無は食べ終えると、辺りを調べ始めた。
なにかを探しているようだ。
「あった……」
彼が手に取ったのは、通帳だった。
中身を確認する。
それほど多くは入っていないものの、荒い使い方をしても2〜3ヶ月はなんとかなりそうな金額が入っていた。
「…意外にあるな」
後ろから覗き込んできた岩沢は、少し驚いていた。
彼女もバイトで稼いではいたが、貯めている余裕は無かった。
「まさみはギターとか、色々あるだろ?
俺はさほど使うことは無かったから」
初音をおんぶして歩いた街のイルミネーションを思い出す。
あの時も、ほとんどお金を使うこと無く終わってしまった。
「じゃ、行ってくるよ」
そんなことを考えている間に、バイトの時間が迫っていた。
服を着替えて、玄関まで見送ってくれた少女に一時の別れを告げる。
「行ってらっしゃい」
満面の笑みで彼を送り出す岩沢。
音無はそれだけで、今日一日頑張れると思った。

更新日:2012-07-02 12:04:34

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