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CASE4

和美は非番にも関わらず科捜研連絡室にやって来た。
「…」
チラリとこちらを見た渥見に挨拶もせず
「!」
突然目潰しを仕掛けたが
「…!」
お互いに指先を押し付け合いプルプルと震えている。
「……厄介事は困るのね…」
和美は、渥見が犬飼に言った言葉を真似してボソリと発した。
「…って、よくもその厄介事に私を巻き込んでくれましたね!?あのあと、犬飼さんをなだめるの大変だったんですよ!?」
昨晩の居酒屋での一件の事である。酒の力も手伝ったのか、あの後、犬飼は和美に
『お前は裏切らないよなぁ?』
など、絡みっぱなしだったのである。あまりにもしつこかった為、思わず額をペチッと叩いてしまったくらいだ。(叩いたら犬飼はしぼんだ)
「なんの事かサッパリなのね」
和美の気迫を笑顔でかわしながら、すっとぼける渥見。
「渥見さん…!」
和美の言葉をきっかけに2人は突き合わせていた指を放した。
「どうして私をあの場所に連れて行ったんですか?」
渥見は和美と目線を合わせながら
「………」
真剣な顔で何か考えていた様だが、
「……信頼出来る人間の中で、真実を教えてくれそうだったのは、チビちゃんだけだったのね」
と、ポソリと本音を話し始めた。
「真実って…自分達で突き止めてたじゃないですか」
違法電波の出所は和美が教える前にすでに割れていた。
「裏付けって言う点では情報が弱すぎたのね」
渥見は椅子をクルリと横に向け言葉を続ける。
「でも、こっちはもう深入りする気はさらさら無いから…チビちゃんも手を引くなら今のうちなのね」
そう言い、和美を見る渥見。
「……(むぅ)」
「……(にこにこ)」
2人の目線が交錯する。
「…ちょっと考えてみます」
ボソリとそう言った和美は、持っていた紙袋をデスクに置いた。
「差し入れです」
置かれた紙袋の中をチラリと覗いている渥見に
「マフィンです。自分作っといて言うのもなんですが、超旨いですよ」
そう告げると彼は嬉しそうにカバンに紙袋をしまった。
和美は一礼して連絡室を後にした。
きっかけは忘れたが渥見の妻が和美の手作り菓子のファンらしい。
実際に顔を合わせて話した事はないのだが、お礼の手紙なんかはもらった事がある。
マタニティーブルーが続く渥見夫人の機嫌が直ると言うことで、大変重宝がられているのだった。

「…おっかしいなぁ…」
非番だったハズの和美は沢に捕まり【健瀧フライトチェックイン】に来ていた。
民間の飛行場で飛び立った2人乗りの小型飛行機が外周の木に激突したのだと言うことだ。
「非番に本庁に居るお前が悪い」
隣に立っていた沢はそう言い、和美の後頭部にチョップを入れて来た。
そんな2人の横をシートをかけられた担架が運ばれていく。
「パイロットか…」
思わず手を合わせて声を漏らす。
「はい、橋田透さん、26歳です。ここに致命傷が」
通りかかった唯が自分の額を指さし報告する。
「死亡推定時刻は?」
和美の隣にやって来た野崎が訊ねる
「4時間から5時間前だそうです」
「…朝6時頃…早朝ですね」
和美が自分の時計を見て声を漏らす。
「乗ってたのはパイロットだけか?」
「同乗者が居たかどうかは不明です。機内から採取した指紋は複数ありましたが、どれも前科はありませんでした」
唯の言葉をメモしていると
「やはり、無線機が壊れてますね」
と、男性の声が耳に入った。服装を見ると唯と同じ鑑識科の人間だと思われたが
「運輸安全委員会の方です」
と、紹介された。
「現場の状況ってどうだったの?」
和美の質問に唯が持っていたゴーグルを手渡す。
「ここに頭をぶつけたんだと思う」
唯が無線機にALSの光を当てると血痕がハッキリと見えた。
ALS(オルタネイティブ・ライト・ソース)とは鑑識作業で使われる特殊な機材で、このライトとゴーグルを合わせる事で血痕などの痕跡を見る事が出来る。
「あ、それで無線機が壊れた……」
和美はメモを取りながら納得した
「うん。で、あっちを頭にして倒れてたんだよ」
唯はそう言いながら、機内にALSの光を当てる。後方の窓の下に血痕が見えた。
「衝突した時に、ここに頭を打ち付け、その反動で体が投げ出されたんでしょう」
と、調査官が無線機を指す。
「投げ出された?シートベルトはどうしたんですか?」
「してませんでした」
和美の言葉に調査官が答える。
「シートベルトをしてなかった…?」
沢はアゴに手を当て、不信感を孕んだ口調でつぶやいた。

更新日:2021-07-25 02:15:45

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