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あいつの所にでも、行ってみれば?お前、死んでる事になってるしさ。結構大丈夫なんじゃねえ?
格好つけて、強がって送り出した。
その日、旅に出ようとしていたマラークを引き留め、うっとうしがるのも構わず、酒場で飲んだ。
駄目元で、ゴーグに来ないかと、言ってみれば良かった。と、酔っぱらいながらくだを巻く自分に、マラークは、どっちにしろ、結果は同じだったろうから、潔く送り出して、格好がついたんだ。良かったじゃないか。と慰められた。
どっちにしろ駄目という、慰めにしてはきつい言葉に更に落ち込み、酔いつぶれ、あげく翌日置いていかれた散々な日から、み月が経つ。
作業場に差し込む春の陽光に誘われ、寝転ぶ。今日中に仕上げるのを諦め、うとうとと微睡む。
そういえば、ここんとこ、あんま日に当たってなかったな。
王直々の依頼をこなす事三度目でやっと恩赦がくだり、異端者から除籍された。それまでは、異端審問官や、賞金稼ぎから身を隠すように仕事をしていて、外を出歩くのは専ら夜だった。
人間にも、日光は必要だっていうもんな。なんだっけ、ほら、あれだ。なんとかっていうビタミンが、日光に当たらないと作られないんだよな。
日光を吸収する面積は多い方がいいだろうと、もっともらしい理由をつけて、瞼にも日光浴をさせる。
あれ?でも、食いもんからも摂れるんだっけか。
気付いて、僅かに目を開けるが、眩しさにまた、目をつぶる。
まあ、どっちでも、いいか。
春の日差しに花がほころぶのと同じに、ムスタディオの中の何かも、春の陽気とやっと得た自由のせいか、たがが緩み、ここひと月程、ぼんやりとした日々を送っていた。
『重症だな』
いつだったか、立ち寄ったマラークにそう言われた。
『まあ、もう少ししたら治るんじゃねえ?』
『いや、お前それは、不治の病だぞ』
神妙な顔でそう言うマラークに、何言ってんだよ。と言った顔は、やはり気の抜けた顔をしていたと思う。
いや、実際、ただ気が抜けているのではなく、本当にそうかもしれない。恩赦を受けてからここのところ、工具すらまともに持てない。手から滑り落としたり、おかしな組立をしてみたり。あまつさえ、物を壊すという機工士にあるまじき体をさらし、父親には近年まれに見るくらいにこっぴどく叱られ、仲間の機工士には引かれると共に、死期の近い人間を前にしたかのように心配された。
これがもし、不治の病からなるものだとして、そこから奇跡的に回復する手段があるとすれば、あいつの顔を一目見る事くらいだろうな。
あいつ、元気にしてんのかな。
夢の中に落ちそうになるのを、乱暴なノック音に邪魔された。
何だよ、誰だよ、騒々しいな。と、ムスタディオは目を覚まし、起き上がり、幾分不機嫌な顔でドアまで行き、開ける直前に客人用の顔に切り替えた。
「はあい、どなた」
ガチャリと開けた先の光景が、信じられずに、ムスタディオは固まった。
「大丈夫、ムスタディオ!?不治の病って!?」
ラムザ!?俺、まだ夢見てんのかな。
ばちんと頬を叩いてみる。
「ちょ、どうしたの!?」
いや、違う。あいつか!?不治の病って・・・。まあ、当たらずとも遠からずだけど、それをこいつに言うかよ。てか、あいつ、ゼルテニアまで何しに行ったんだ?
奇異な行動に出たムスタディオをラムザが心配する。まさか、本当に変な病気になっちゃったの?と焦っている。それにはた、と気付いたムスタディオは気を取り直す。
「ああ、いや、さっきまで昼寝してたからさ。お前がうちに来た夢でも見てんじゃねえかと思って」
「何言ってるのさ。マラークと偶然旅先で会って、君が不治の病にかかって大変だって聞いたから、心配してゴーグまで来たんだよ」
「あいつ大袈裟なんだよ。なんか急に平和になって、気が抜けて二、三日ボーっとしてたとこに来たからさ」
「え?君がゴーグでぼーっとするなんて、珍しいね」
そう言われてみれば確かに、日夜戦闘で疲れていた筈なのに、帰ればいつも、遺産解明や、機工士の仕事を徹夜で手伝って、ラムザに怒られていた気がする。
-休む為にゴーグへ来たんだからね。解ってる?ムスタディオ!ー
そんな風に。
「うん、まあ、春だしな。取り敢えずさ、上がって茶でも飲んでけよ」
促すムスタディオに、ラムザは笑顔で、うん、と頷き、いつぶりかのムスタディオの家に入る。
客間兼ダイニングに招き、ラムザにカフェオレを出す。自分にはコーヒーを淹れ、その場で口をつける。
格好つけて、強がって送り出した。
その日、旅に出ようとしていたマラークを引き留め、うっとうしがるのも構わず、酒場で飲んだ。
駄目元で、ゴーグに来ないかと、言ってみれば良かった。と、酔っぱらいながらくだを巻く自分に、マラークは、どっちにしろ、結果は同じだったろうから、潔く送り出して、格好がついたんだ。良かったじゃないか。と慰められた。
どっちにしろ駄目という、慰めにしてはきつい言葉に更に落ち込み、酔いつぶれ、あげく翌日置いていかれた散々な日から、み月が経つ。
作業場に差し込む春の陽光に誘われ、寝転ぶ。今日中に仕上げるのを諦め、うとうとと微睡む。
そういえば、ここんとこ、あんま日に当たってなかったな。
王直々の依頼をこなす事三度目でやっと恩赦がくだり、異端者から除籍された。それまでは、異端審問官や、賞金稼ぎから身を隠すように仕事をしていて、外を出歩くのは専ら夜だった。
人間にも、日光は必要だっていうもんな。なんだっけ、ほら、あれだ。なんとかっていうビタミンが、日光に当たらないと作られないんだよな。
日光を吸収する面積は多い方がいいだろうと、もっともらしい理由をつけて、瞼にも日光浴をさせる。
あれ?でも、食いもんからも摂れるんだっけか。
気付いて、僅かに目を開けるが、眩しさにまた、目をつぶる。
まあ、どっちでも、いいか。
春の日差しに花がほころぶのと同じに、ムスタディオの中の何かも、春の陽気とやっと得た自由のせいか、たがが緩み、ここひと月程、ぼんやりとした日々を送っていた。
『重症だな』
いつだったか、立ち寄ったマラークにそう言われた。
『まあ、もう少ししたら治るんじゃねえ?』
『いや、お前それは、不治の病だぞ』
神妙な顔でそう言うマラークに、何言ってんだよ。と言った顔は、やはり気の抜けた顔をしていたと思う。
いや、実際、ただ気が抜けているのではなく、本当にそうかもしれない。恩赦を受けてからここのところ、工具すらまともに持てない。手から滑り落としたり、おかしな組立をしてみたり。あまつさえ、物を壊すという機工士にあるまじき体をさらし、父親には近年まれに見るくらいにこっぴどく叱られ、仲間の機工士には引かれると共に、死期の近い人間を前にしたかのように心配された。
これがもし、不治の病からなるものだとして、そこから奇跡的に回復する手段があるとすれば、あいつの顔を一目見る事くらいだろうな。
あいつ、元気にしてんのかな。
夢の中に落ちそうになるのを、乱暴なノック音に邪魔された。
何だよ、誰だよ、騒々しいな。と、ムスタディオは目を覚まし、起き上がり、幾分不機嫌な顔でドアまで行き、開ける直前に客人用の顔に切り替えた。
「はあい、どなた」
ガチャリと開けた先の光景が、信じられずに、ムスタディオは固まった。
「大丈夫、ムスタディオ!?不治の病って!?」
ラムザ!?俺、まだ夢見てんのかな。
ばちんと頬を叩いてみる。
「ちょ、どうしたの!?」
いや、違う。あいつか!?不治の病って・・・。まあ、当たらずとも遠からずだけど、それをこいつに言うかよ。てか、あいつ、ゼルテニアまで何しに行ったんだ?
奇異な行動に出たムスタディオをラムザが心配する。まさか、本当に変な病気になっちゃったの?と焦っている。それにはた、と気付いたムスタディオは気を取り直す。
「ああ、いや、さっきまで昼寝してたからさ。お前がうちに来た夢でも見てんじゃねえかと思って」
「何言ってるのさ。マラークと偶然旅先で会って、君が不治の病にかかって大変だって聞いたから、心配してゴーグまで来たんだよ」
「あいつ大袈裟なんだよ。なんか急に平和になって、気が抜けて二、三日ボーっとしてたとこに来たからさ」
「え?君がゴーグでぼーっとするなんて、珍しいね」
そう言われてみれば確かに、日夜戦闘で疲れていた筈なのに、帰ればいつも、遺産解明や、機工士の仕事を徹夜で手伝って、ラムザに怒られていた気がする。
-休む為にゴーグへ来たんだからね。解ってる?ムスタディオ!ー
そんな風に。
「うん、まあ、春だしな。取り敢えずさ、上がって茶でも飲んでけよ」
促すムスタディオに、ラムザは笑顔で、うん、と頷き、いつぶりかのムスタディオの家に入る。
客間兼ダイニングに招き、ラムザにカフェオレを出す。自分にはコーヒーを淹れ、その場で口をつける。
更新日:2012-05-02 23:24:43