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2.ぼーいずとーく?


 見事なもんだ。
 城の中庭に据えられた樅の木を見上げながら、グリフィスはため息をついた。
 結局この日まで居座ってしまった。



 そもそもはセルウィンが元気になったらすぐにでも城を発たせてもらうつもりだったのだが、グリフィスがそのことを少しでも言い出すそぶりを見せるたびに、小さなリナリアの引き留めに遭うのだった。
「あと一週間」が「もうちょっとだけ」になり、「お祭りがあるの、その日まで」と拝み倒されては強く断れる自分ではない。
 ロイドは当初、自分と同じように手持ち無沙汰にしていたはずなのに、いつの間にかリナリアと、なぜか長逗留する気満々のモルガナの味方をする。
「あたしお城でお祭りなんて初めてだよ。ね、いいでしょ?」
「貴重な地域の風習でしょう? せっかくですから」
 セルウィンの様子を窺えば、ロイドの言葉に満更でもないような様子だ。
「私はどちらでもいいんですが……」
 と口では言っているものの、ああ。
 やきもきする。
「じゃあ、お祭り、までなら──」

 喜んだのはリナリアとモルガナだ。二人はすっかり仲良くなって、一緒に台所でお菓子を作ったり、難しげな本をセルウィンに講釈してもらったりしている。居間で何かの内緒話までしていた。
 リナリアは一人っ子だし、モルガナも三人姉妹の一番下だから、お互いに姉や妹ができた気がして嬉しいのだろうか。
 ロイドはすっかり馴染んで、夕食後に楽器演奏の腕を披露したりしていた。そうなれば自分も細々とした仕事を探したり、有事の際や妖魔に備えて用意されている武器の手入れやそれを扱う人間の訓練法などを伝授してみたりした。
 そして、胸中でふとつぶやいている自分に気づく。
──こういう日々も、ありかなあ。
 今回の遺跡の資料を発見した、ということが自分たちのパーティーには今までになく名声となるだろう。助けてくれた人たちの手柄にしなくていいのだろうか、と少し悩んでいたりもするが。
 まあ、こういうことが食い扶持になるかはまた別の話で、知識や経験がそのまま財産になるロイドやセルウィンはいいだろうが、自分は正式な仕官の口でも見つけなければならないだろう。
──ロイドとセルウィン、か。
 祭りの支度を手伝う中でも、二人はうちとけた様子を見せていた。しかし自分に対してはセルウィンは、合った視線をさらりと外してしまったり、他人行儀に軽く頭を下げてよそに行ってしまったりする。
 こうなったのは、いつからだったろうか……?
 運んでいた木材もそのままに、遠ざかる彼女を見送っていたら、背中を小突かれた。こういうことをするのは必ず、幼馴染みのモルガナだ。
「かわい~い」
……こっちもこっちで訳が分からない相手なのだった。



更新日:2009-12-19 03:46:46

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