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三階の三十九号室

三階の三十九号室に最初に入ったときは、天井しか見てなかったし、歩けもしなかったからわかんなかったけど、気がつくとこれまた狭い部屋でね。

なのに五つもベッドが入ってるんだ。窓際には縦に三つ、手前はドアを挟んで左が縦ベッド、反対側は洗面所のスペースのかげんでベッドは横向きだ。過密だろ? 

なんか二酸化炭素が充満してそうで、聞いただけで息苦しくなるだろう? 

オレは窓際の右奥だった。隣りのベッドとの間隔が一メートルないくらいに狭くて、仕切りはその真ん中にピンクのカーテン一枚ぶら下がってるだけなんだ。

反対側は壁だから、オレの取り分は五十センチしかなくて、そこにテレビの乗った台とか、食事用の台とか、点滴台とかスツールがあるわけで、つまり、立錐の余地もないんだ。回診のときはいろんなものをやりくりして移動させないとなんないんだ。

交通事故で入院した時は、もっと広い部屋に四人だったし、カーテンもそれぞれにぐるりと引けるようになってたから、すごく勝手がちがった。

最初は隣りのベッドが空いていたからそれほどには感じなかったけど、それでも手前の横ベッドには寝たきりらしい唸るじいさんがいて、ずっと寝てるんだけど、夢見てるんだろうけど、ときどき返事するような寝言をいうんだ。「ちがう、そうじゃない」とかさ。慣れてないとドキッとするよ。

この部屋は差額ナシだから仕方がないのかもしれないけど、こりゃあテレビで見た野戦病院なみだなって思った。

オレのベッドの枕元にぶら下がった「桂木総司」と書いたプレートに主治医の名前が入っていない。

この喃喃病院では主治医制度はないんだ。その日その日で回診する医師が診るってことになってるらしい。

専門的なことを聞きたいと思うことだってあるし、責任とかのありがかわかんなくなるよな。そんなのでいいのかなあってちょっと不安になる。

検査と診察に付き添ってくれたアニキは、医者や看護婦の話を聞いてオフクロさんに連絡してくれた。

それで一段落ついたら、もう眠さが最高潮だったらしくて廊下のソファで倒れるようにして寝た。夜中に突然たたき起こされてこの事態だもんな。

アニキ、実はこういうのあんまり得意じゃないんだ。悪かったな。

こっちはぜんぜん寝てなくても夜は明けて、十月四日の朝日が狭苦しい五人部屋に射しこんできて、壁のむき出しの筋交いにたまってる埃とかが目に付いたりするんだけど、オレの腰は相変わらず猛烈に痛かった。

更新日:2009-01-18 17:17:51

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