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 直轄地軍の門をくぐる。
 奥の建物から、待ち構えていたように一人の男が姿を見せた。
「アルマナセル殿? 任務、ご苦労様です」
 馴れ馴れしく声をかけてきたのは、王国軍の紋章を身につけた男だ。
「予定よりも遅れていらっしゃるようなので、こちらに伺っておりました。どうやら行き違ったようですな。姫巫女は、もう王宮へ?」
「王宮?」
 相手の、尊大さが透けて見える態度に、ああ帰ってきたんだなぁと実感するところが少し哀しい。
 だが、問いかけられた言葉が不審で、問い返す。
「水竜王の姫巫女です。馬車が見当たりませんが、王宮へ送り届けられたのですよね?」
「姫巫女でしたら、火竜王宮へ向かっておられますが」
 戸惑いつつ返した言葉に、相手は息を飲んだ。
「何ですと!? 姫巫女は、王宮へ来られることになっている!」
「いえ、そもそも将軍から受けた命令書には竜王宮へと」
「その後、命令変更をお知らせしたはずだ! ガルデニアに向けて、使者を送り出していた!」
 テナークスへと視線を向ける。全く心当たりがないらしく、無言で首を振った。
「何てことだ! では、姫巫女は竜王宮に?」
「ええ、先ほどからそのように」
「馬を!」
 ヒステリックに怒鳴っていた男が、辛抱強く繰り返すアルマナセルの声を遮った。
 足音も荒く、門に近づいていくが、突然くるりとこちらを振り返る。
「このことに関しては、王に報告致しますからな! そのおつもりでいらして頂きたい!」
 憤然と、急いで引かれてきた馬に跨り、男は街路へと駆け出して行った。
「……何だったのですか」
 呆然として、テナークスが呟く。
「また王家と竜王宮で何か諍いがあったんだろう。よくあることだ」
「……よくあるのですか……」
 あまり王都に滞在したことがないのか、テナークスは力なく繰り返した。
「使者、か」
 グラナティスなら、使者を足止めすることぐらい、簡単にやってのけるだろう。むしろ、それ以上のことをしていないと言い切れるだけの自信はない。
 知らず、アルマナセルは小さく笑みを浮かべていた。





 火竜王宮は、石造りの頑健な建物だった。
 夕暮れも近く、元々曇り空だった今日は、屋内も酷く暗い。
 ペルルは、一人、小さな応接間に通されていた。部屋の中には他に誰もいないが、周辺にも人気はないようで、物音一つ聞こえてこない。
 心細さに、膝の上でぎゅぅ、と服の生地を掴む。
 どれほど待ったのか、重厚な扉が軋みを上げて開いた。
 はっとして、立ち上がる。
「お待たせ致しました。グラナティスと申します」
 落ち着いた声音で話しかけてきた相手を、水竜王の姫巫女はまじまじと見つめた。

更新日:2012-06-27 21:16:02

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