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小説

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滅の章

 ちらちらと細かな雪が舞う中、砦に帰り着いた一行を一階の広間で待っていたのは、渋い顔をした司令部の面々だった。
「何をしでかした?」
 グラナティスが憮然として尋ねる。
 右半身を朱に染めたオリヴィニスと、ペルルを抱き上げているアルマナセルが顔を見合わせた。
「エス・タールとイフテカールが」
「判った中で聞く」
 二人の名前を出したところで、幼い巫子はすぐに踵を返した。
 全員を従えて歩き出す彼に、アルマナセルが声をかける。
「ペルルを一旦部屋に送っていっていいか?」
 肩越しにちらりと視線を向ける。オリヴィニスのマントに包まれ、素足のまま震えているペルルを認めて小さく頷いた。
「いいだろう。だが、お前はこのまま来い」
「待てよ、裸足なんだぞ!」
 抗議するアルマナセルに、慌ててペルルが口を開く。
「あの、もう大丈夫です。屋内に入りましたし、怪我もしておりませんから自分で歩けます」
 その言葉に眉を寄せるが、おとなしく彼女を床に下ろした。そのまま、強引に自分の靴を脱ぐ。
「使ってください」
「え、でも」
「着替えたら、返して貰えればいいから。……頼むぞ」
 後ろから駆け寄ってきたプリムラに告げる。真面目な顔で頷いた少女は、軍用のブーツを苦心して履こうとしているペルルにすぐ手を貸した。
 砦内の安全性にまだ疑問はあるが、それでもプリムラがついていたら大丈夫だろう。
「私も着替えてきていいかな」
「怪我は治ってるんだろう。そのまま来い」
 オリヴィニスとグラナティスが軽口を叩いているのを追いかける。
 背後で、大き目のブーツがかぽかぽと足音を立てて遠ざかっていった。


「こちらからもお知らせすべきことは山ほどありますが、とりあえずそれはペルル様が戻られてからの方がよいでしょう。そちらで何があったのか、お話し頂けますか」
 スクリロス伯爵が礼儀正しく問いかける。
 アルマナセルが、ざっとペルルが誘拐された顛末を語り始めた。
 話し初めてすぐに、不在だった者たちの顔が険しくなる。
「どうしてこちらへ使いを出さなかったのです? 閲兵式など、いくらでも中断できる」
 モノマキア伯爵が咎めるように言った。
「龍神の配下が、どこにいるか判らない状態です。情報を広めたことで、こちらの動きが掴まれる、ということは避けたかった。姫巫女の身に危険が及ぶかもしれませんから」
 アルマナセルの返事に、渋面を保ちながらも、伯爵は頷いた。
 その後、ペルルの居所を突き止め、エス・タールやイフテカールと戦い、結果、砦の建造物を半壊させてしまったことを謝罪する。
 まあやらかしたのは殆どオリヴィニスなのだが。
 しかし、彼がエス・タールを仇と定め、その結果被害が拡大したことは、この場では口を噤んだ。言うにしても、グラナティスたちに対してだけでいいだろう。
「誘拐犯たちは眠らせた上に拘束していたのですが、いつの間にか姿を消していました。自分で起きられるほど時間は経っていませんでしたから、おそらくイフテカールが連れ出したのでしょう。意外と部下のことを思っているようでしたし」
 ふむ、とグラナティスが腕を組む。
「しかし、結局ペルルを連れていけないままで、よくそんな簡単に引き下がったな」
 確かに、イフテカールの引き際は呆気ないものだった。
 以前に邂逅した時も似たような流れだったために、深く考えてはいなかったが。
「あ。ほら、彼、最後にちょっと言ってたじゃないか」
 何かに気づいたのか、オリヴィニスが視線を向けてくる。
「確か、『ここでの用事も終わった』、って」
「……ああ、言ってたな」
 スクリロス伯爵が首を傾げる。
「それは、先ほど言っていた手下たちを連れ出すことや、砦の崩壊を防いだことでは?」
「いや。それらは、元々ペルルを攫う、ということから派生した状況だ。ペルルを連れて行くことをあっさりと諦めて、後始末だけしていく、というのは、どうにもしっくりしないな」
 グラナティスがそれに応じて返す。彼は、イフテカールに関してはこの中で最も詳しい。
「他に何か目的があったのか……?」
 しかし、それについては全く心当たりはない。
「とにかく、今後、何か奇妙なことが起きたらすぐに報告を上へ上げるように通達しておこう。我々には予想しえない事態が起きるかもしれないからな」
 スクリロス伯爵が、無難に纏めた。

更新日:2013-09-07 04:09:25