- 228 / 770 ページ
「法的には、フルトゥナの領土ではなかろう。イグニシア王国が、手を入れずに放っておいているだけだ」
「入れられずに、の間違いではないか」
竜王兵の隊長と親衛隊の隊長が再び言い争いを始める。
「ドゥクス。報告だ」
苛々と、グラナティスが命じた。男は慌ててこちらを向き、姿勢を正す。
「はっ! 三日前の午前中まで拘束は続き、その後、奴らを同行させる、という条件で解放されました。無論、全員を斬り捨てて堂々と脱出を果たしてもよかったのですが、皆様の安全を確認もできぬ状況では、下手に逆らうこともできず、要求に従うことにした次第でございます」
「やれるものなら、やってみれば……」
「イェティス。黙って」
突っかかりかけるのを、オリヴィニスが一言で止める。
「仲悪ぃんだな……」
呆れて、アルマナセルは呟いた。
それを耳に挟んだらしい、二人の竜王兵が苦笑する。
「まあ、体制の犬って奴はああいうもんだよ。組織が向く方向へきゃんきゃん吠えかかるのが主な仕事だ」
一歩後ろに下がっていたクセロが訳知り顔で話しかける。
「今日のお前は本当に説得力がないよな」
が、アルマナセルに返されて、僅かに傷ついた顔で視線を逸らせた。
グラナティスが溜息をつく。
「ならば、あの二艘はそいつらの船なのだな」
いがみ合う二人が、揃って一礼して肯定する。
「では、さほど問題はない。勿論、火竜王宮の船は完全に解放して貰えるのだろう?」
水面の位置は、桟橋よりも低い。その高低差を利用して、グラナティスは存分に相手を睥睨していた。
イェティスがやや居心地悪げな顔をする。
「勿論だよ。今までの護衛、ご苦労だったね、イェティス」
さらりとオリヴィニスが口を挟む。
「とんでもございません、我が巫子」
風竜王の高位の巫子の決定に、半ば残念そうに、半ばほっとしたようにイェティスは軽く頭を下げた。
呪いは破れ、国土はもう安全だという言葉を受け、舟が桟橋につけられる。
竜王兵の一人が桟橋の先まで走り、手にした旗を大きく振った。沖に停まっていた船が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
「馬と馬車を積みこみますか?」
ドゥクスが尋ねてきた。グラナティスが眉を寄せる。
「何日かかるか判らないからな……。何人か、世話をさせる人間を残せるなら、ここへ置いていこう。幸い、人手は増えたことではあるし。本格的に移動する前に拾いにくればいい」
船に馬を乗せると、世話が大変だ。主に餌と排泄物の問題で。揺れる船の中では、馬も落ち着かないということもある。
何の話かは気になったが、グラナティスは自分で決めた時まで事情は漏らさない。
諦めて、アルマナセルはペルルと共に船の繋留作業を見守った。
馬と何人かの人手を廃墟に残し、火竜王宮の船に乗りこむ。
充分に沖に出たとグラナティスが判断したところで、一行は船室へと移動した。
少々手狭ではあるが、会議のできる部屋へ通される。
三竜王の巫子と〈魔王〉の裔が着席し、火竜王兵の隊長と盗賊たち、風竜王の親衛隊長がそれぞれの主の後ろに立った。
一同を眺め渡し、グラナティスが口火を切る。
「我々は、先日風竜王を解放することに首尾よく成功した。続く行動について、気を揉んでいる者もいるだろう。事情があってここまで話せなかったことを詫びておこう」
軽く全員を見回す。
特に口を挟む者がいないことを見て取り、幼い巫子は言葉を継いだ。
「……さて、その行動とは、もう一柱の新たな竜王を解放することだ」
「入れられずに、の間違いではないか」
竜王兵の隊長と親衛隊の隊長が再び言い争いを始める。
「ドゥクス。報告だ」
苛々と、グラナティスが命じた。男は慌ててこちらを向き、姿勢を正す。
「はっ! 三日前の午前中まで拘束は続き、その後、奴らを同行させる、という条件で解放されました。無論、全員を斬り捨てて堂々と脱出を果たしてもよかったのですが、皆様の安全を確認もできぬ状況では、下手に逆らうこともできず、要求に従うことにした次第でございます」
「やれるものなら、やってみれば……」
「イェティス。黙って」
突っかかりかけるのを、オリヴィニスが一言で止める。
「仲悪ぃんだな……」
呆れて、アルマナセルは呟いた。
それを耳に挟んだらしい、二人の竜王兵が苦笑する。
「まあ、体制の犬って奴はああいうもんだよ。組織が向く方向へきゃんきゃん吠えかかるのが主な仕事だ」
一歩後ろに下がっていたクセロが訳知り顔で話しかける。
「今日のお前は本当に説得力がないよな」
が、アルマナセルに返されて、僅かに傷ついた顔で視線を逸らせた。
グラナティスが溜息をつく。
「ならば、あの二艘はそいつらの船なのだな」
いがみ合う二人が、揃って一礼して肯定する。
「では、さほど問題はない。勿論、火竜王宮の船は完全に解放して貰えるのだろう?」
水面の位置は、桟橋よりも低い。その高低差を利用して、グラナティスは存分に相手を睥睨していた。
イェティスがやや居心地悪げな顔をする。
「勿論だよ。今までの護衛、ご苦労だったね、イェティス」
さらりとオリヴィニスが口を挟む。
「とんでもございません、我が巫子」
風竜王の高位の巫子の決定に、半ば残念そうに、半ばほっとしたようにイェティスは軽く頭を下げた。
呪いは破れ、国土はもう安全だという言葉を受け、舟が桟橋につけられる。
竜王兵の一人が桟橋の先まで走り、手にした旗を大きく振った。沖に停まっていた船が、ゆっくりとこちらへ向かってくる。
「馬と馬車を積みこみますか?」
ドゥクスが尋ねてきた。グラナティスが眉を寄せる。
「何日かかるか判らないからな……。何人か、世話をさせる人間を残せるなら、ここへ置いていこう。幸い、人手は増えたことではあるし。本格的に移動する前に拾いにくればいい」
船に馬を乗せると、世話が大変だ。主に餌と排泄物の問題で。揺れる船の中では、馬も落ち着かないということもある。
何の話かは気になったが、グラナティスは自分で決めた時まで事情は漏らさない。
諦めて、アルマナセルはペルルと共に船の繋留作業を見守った。
馬と何人かの人手を廃墟に残し、火竜王宮の船に乗りこむ。
充分に沖に出たとグラナティスが判断したところで、一行は船室へと移動した。
少々手狭ではあるが、会議のできる部屋へ通される。
三竜王の巫子と〈魔王〉の裔が着席し、火竜王兵の隊長と盗賊たち、風竜王の親衛隊長がそれぞれの主の後ろに立った。
一同を眺め渡し、グラナティスが口火を切る。
「我々は、先日風竜王を解放することに首尾よく成功した。続く行動について、気を揉んでいる者もいるだろう。事情があってここまで話せなかったことを詫びておこう」
軽く全員を見回す。
特に口を挟む者がいないことを見て取り、幼い巫子は言葉を継いだ。
「……さて、その行動とは、もう一柱の新たな竜王を解放することだ」
更新日:2013-03-26 23:30:32