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 充分に明るくなったところで、一行は一度街道を外れた。朝食を摂りがてら、休憩をすることにしたのだ。
 舗装されていない地面でがたがたと揺れる馬車を、気遣わしげに見つめる。
 街道から適度な距離を取ったところで停止した。
 クセロが馬車から馬を外す。
「大将たちのことを頼むぜ」
 プリムラに告げると、彼女は小さく頷いて御者台から降りた。馬車の後ろの荷台を開け、食料を持ち出してきている。
 騎乗してきた馬と荷馬を連れて、アルマナセルとノウマードもその場を離れた。さほど遠くはない草むらへと誘導する。
「ちょっと待って。こういう茂みには、毒草が生えてることがあるから」
 ノウマードが制止しつつ、足で草を掻き分けた。どうやらその手の物騒なものは見当たらなかったらしく、頷いて馬を寄せる。
 おとなしく草を食み出した馬を、やれやれといった気持ちで見つめる。ノウマードは休む間もなく、一頭ずつ蹄鉄を点検し始めた。
 アルマナセルとクセロは、腕を動かして固まった関節をほぐしている。
「……あのプリムラって娘は、あんたの妹とかか?」
「いや。他人だよ。何でだ?」
 僅かに警戒するように、訊き返される。
「何となく、嫌われてるような感じがしてさ。そういや、別に血縁は関係ないな」
 単純に、尋ねるきっかけが欲しかっただけだ。
「何て言うか、ちょっと無愛想な娘だよね。いつもあんな感じ?」
 さらりとノウマードが会話に入ってきた。
「ちょっと人見知りっちゃ人見知りだな。まあ、他にも色々理由はあるが」
 大きく伸びをしつつ、クセロが答えた。
「ふぅん。ペルル様には懐いてるみたいだけど」
 以前からの知り合いらしいグラナティスには特に言及しない。
「ああ、前にペルルが言ってたけど、女性には女性同士のつきあいが欠かせないんだってさ。その辺の違いじゃないか?」
「へぇ。そうなのか?」
 感心したようなノウマードの言葉に、金髪の男が苦笑する。
「女の気持ちなんて、判ろうとするだけ無駄ってもんだぜ」
「無駄?」
 その、見下したような言い方にむっとしてアルマナセルが呟く。
「大抵は時間と金の無駄さ」
 無意味に胸を張り、クセロが断言する。
「女性に相手にされてないだけじゃないのか?」
 だが、ノウマードが視線も向けずに放った言葉に、蹲った。
「……容赦ねぇなぁ、お前……」
 小さく生唾を飲みこみつつ、呟く。ノウマードはそれには反応しなかった。
 クセロに向き直り、殊更明るい声を出す。
「まああれだよ、男女の仲なんて、人によってそれぞれ違うもんなんだから。たまたま合わなかった相手とのことなんて、気にすんな」
 心なしか潤んだような視線で、クセロが見上げてきた。
「他人のことなら簡単に言えるもんだよねぇ」
 しかし、ノウマードが姿勢も変えずに放った言葉に、アルマナセルもその場に蹲る。
 枯れ草の混じった、もの悲しさすら感じる茂みが酷く近い。
 そんな二人を気にも留めず、さて、と呟いてノウマードは立ち上がる。そのまま、隣にいる馬の背を撫でた。
「ねえ、この辺に川か池はあるのかな?」
 全く気遣う様子もなく尋ねられて、もやもやする頭の中で、王都の周辺地図を浚う。
「……なかった、と思う。何でだ?」
「馬に水を飲ませてやらないと」
 ああ、と蹲ったままでクセロが頷いた。
「桶と水は馬車に積んできてる。水は今夜の宿でまた補給できるから、節約しなくてもいいだろ。取ってくるさ」
 心なしか弱々しく、よいせ、と勢いをつけて、男が立ち上がる。
「俺も行くよ。重いだろ」
 軽く身を起こし、数歩先行していたクセロに追いつく。
 数メートル離れたところで、男が声を落として囁いた。
「……あいつ、いつもあんな風なのか?」
「あー。うん。まあ、何て言うか、大体」
 誤魔化すような、誤魔化せてないような感じで返事をする。疲れたように、クセロが溜め息を零した。
「キツいのの相手は、大将で多少経験を積んでたつもりだったんだけどなぁ……」
「タイプが違うよな。奴ら」
 同意して、二人ともに疲れたように肩を落とす。何となく、奇妙な連帯感が生まれていた。
 やたらと耳のいい風竜王の巫子には、きっと聞こえてるんだろうな、と覚悟しながら。

更新日:2012-09-21 22:51:52

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