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NO.9 かいじん著  星空 『真夏のシリウス』

空調の効いたレストランの窓から外の風景を眺めると
全ての物がほぼ真上から照りつける真夏の灼熱の太陽で
目に眩しく映った。

国道の向こう側の畑が広がっているさらにその先に基地の
柵が滑走路に沿って伸びていて、滑走路と3機の航空機が
並んだ駐機場の向こう側に、管制塔と3つ並んだかまぼこ型の
格納庫が立ち昇る蜃気楼に揺らめいて見えた。

はるか昔、この国の都市を爆撃する為に、南方から飛来して来る
長距離爆撃機を迎撃する為に、局地戦闘機があの滑走路から
飛び立っていった。

戦後、基地は戦勝国に接収されていたが、その後返還されて
今はこの国の(軍隊)が使用している。

「何だか、この辺りの風景って何と無く殺風景だわね。」

摩耶が言った。

「多分、地形に変化が無さ過ぎるからだろうと思う。」

僕が答えた。

僕らはレストランを出た。

外に出ると、途端に僕らは降り注いでくる激しい陽射しと
アスファルトから立ち昇る熱気にさらされた。

基地の滑走路から輸送機がジェットエンジンの轟音を響かせながら
飛び立って急上昇して行くのが見えた。

僕らは国道沿いを歩いた。
 
途中にある小学校の運動場では、盆踊りの為の櫓が組まれ
提灯が吊り下げられていた。

国道から左の方に伸びている道をしばらく歩いて、
僕らは生い茂った木立に囲まれた建物にたどり着いた。

激しい陽射しからは逃れる事が出来たが、すぐ真上から
いっせいに降って来る、蝉の鳴き声が耳をつんざいた。

僕が持っていた鍵を使ってドアを開け、建物の中に入ると
蝉時雨ははるか遠くに遠のいて行った。

玄関のすぐ脇にある部屋でクーラーの風を浴びながらしばらく休んだ後、
僕らは、薄暗い廊下を奥の方に進んで、突き当りの右側の部屋に入った。

暗闇に目を慣れさせる為に、黒いカーテンを閉め切って真っ暗に
してあるその部屋に摩耶を待たせて、僕は鍵束とライトを持って
向かいの部屋に向かった。

(5)のテープが貼られた鍵を差し込んでドアを開け中を照らすと
大きなドーム型の白いスクリーンの下に、サークル型にパイプ椅子が
配置され、その中央に、操作盤が内臓されたキャビネットの上に
古い天体映写装置が置かれている。
 
数十年前、この町にある基地を接収していた戦勝国の空軍が
パイロットに非常時の為の天体観測飛行訓練を行う為に
この装置を持ち込んだ。

 装置はその後この国の軍隊に引き継がれ、時を経て、町に
 寄贈される事になった。

 ・・・  僕は摩耶とスクリーンに映し出された星空を眺めている。 
南の空に、赤く輝く星アンタレスが心臓部分にある、さそり座
 天頂からやや東寄りの空に、デネブを尾にした白鳥座
 
 映し出されているのは、夏の夜に広がっている、星空だ。
  「地球以外に生命がある星ってどの位あるのかしら?」 
星空を見上げながら摩耶が言った。
  それを聞いて、僕はドレイクの方程式と言うのを思い出した。  「地球と言うのは(奇跡の星)なんだよ」 
僕は答えた。 
地球の公転軌道が今の軌道より内側や外側にあった場合 生命が誕生する事は無かっただろう。  僕は手動のハンドルを回して映写機を回転させた。 
秋の星座、ペガサスがスクリーンを駆け抜けて 南の空に冬の星座オリオン座が広がってシリウスが
 光り輝いた。 
 「オリオン座の東に輝いているシリウスは夜空でもっとも 明るく見える恒星です・・・」 
 2年前から、僕はこの装置で年に何度か子供たちに星座の 説明をする事になった。  ポール・モーリアの(蒼いノクターン)がBGMに流れる説明テープに沿って 赤い矢印の出るライトで冬の星座を指して行く。 
 説明テープの声は、僕のかつての恋人の2年前の声だ。 
 今は結婚して遠く離れた場所に住んでいる。 
 生命と言うのは、なぜ新しい生命を誕生させてまで、存続を 続けていくのだろう? 
 僕は頭上を覆い尽くしている闇に無数にちりばめられた星を 眺めながら、自分の存在がとても小さなものに感じられた。

更新日:2012-03-31 20:50:54

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