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オーディション〜光の中で

最初の10人がステージに上がった。

挨拶をして、一人が残り、残りの9人はステージの横に歩いて行った。

ステージ上に残った少年はエレキギターを肩から掛け、徐にチューニングをはじめた。

6弦、5弦、4弦…と、音を合わせいく。

場内は水をうったような静けさが広がり、緊張感に包まれている。

俺は『度胸あるなぁ…』と思いながら固唾を飲んで見るしかなかった。


ステージのセンターにあるスタンドマイクに向かって行った。

『1番、、宜しくお願いします。』と言うと、ギターを演奏し始めた。


リードギターで、物凄い速さで奏でていく。

滅茶苦茶上手い。

ギターソロだけで、ずっと聞いてられる。

『うわぁ…レベル高い!ギターを弾くって、こう言うレベルなんだ…。』

今更ながら、己の未熟さを思い知った。と、同時にまともにギターを弾く事はやめようと思った。

あまりにも、滑稽すぎるからだ。


1番の演奏が終わった。

審査員席に置いてあるマイクを通じて質問が飛ぶ。

『youは何年位、ギターを弾いてるの?』

『youは今、何処に住んでるの?』

ジャニーさんが質問する時には必ず『you』と言う。
誰が質問したか解りやすい。

一通り質問が終わると、『次の方、お願いします。』と、アナウンスが流れる。
と、舞台の袖で待機していた一人がステージへ歩いて行くと言う段取りである。
2番目の人は、ベースを肩に掛けて、センターマイクに向かった。

先ほどの彼と同じように、番号、名前、演奏する楽器、人によっては、演奏する曲目、を言う事になっている。

また、サイドギター、リードギター、ベース、キーボード、ドラムにそれぞれミュージシャンがスタンバイしており、オーディションを受ける人が、ドラムなら、そのポジションだけ入れ替わり、演奏をした。


皆それぞれが、セミプロ?ではないかと思える程、『間違え』る事すらなく、演奏をこなしていく。

中にはオリジナルの作詞、作曲した歌をキーボードの弾き語りで歌った人もいた。

レベルの高さに愕然としている間に、自分がスタンバイする順番になってしまった。

舞台の袖に歩いて行く。

用意されたパイプ椅子に腰かける。

心臓はバクバクと異常な早さで脈うっている。

『…どうしよう…。』

喉は渇き、心臓が口から飛び出るのではないかと思う程に緊張している。

そう思っている間に、自分の番が来てしまった。

『次の方、どうぞ!』

自分の番が来た。

『やるしかない!』

俺は意を決して、歩き始めた。

センターマイクの前に立ち、番号と名前を言った。

ギターを持つわけでも無く、他の楽器に向かうわけでもない様子に、『あなたは何をやりますか?』と尋ねられる。

地明かりの照明に照らし出されたそこは、明らかに人生の分岐点だった。

心臓の鼓動は最高潮に高鳴っている。

咄嗟に言葉が出た。

『歌を歌います・・』

一瞬、会場にしらけた空気が漂った。

おおよそ、見当違いの発言をしたように会場内を”沈黙”が支配した。

『何を歌いますか?』

スタッフが聞いてきた。

『イルカのなごり雪を…』

『キーは?』


今度は後ろから声が聞こえた。

キーボードの人だった。

『Fでお願いします!』

唯一、家でギターを弾いていた時、コード進行を完璧に覚えていた曲である。

キーが高い俺は、歌える曲目が少なかった事から、『なごり雪』をよく歌っており、歌詞も殆ど完璧に覚えていた。

聞き覚えのあるイントロが流れてきた。

ステージの上、スポットライトを浴び、スタンドマイクの前にいる。

不思議と落ち着いてきた。
両手でスタンドマイクを握り一瞬、目を閉じて深呼吸をした。

『♪汽車を待つ君の横で僕は…時計を気にしてる…♪』


歌いだすと、心臓の高鳴りが穏やかになっていった。
光の中でマイクに向かって自分の全てを叫んだ。

更新日:2012-02-25 15:51:32

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