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桜の代紋~原蜂文~

 最近の若い兵士は、異国人か?!



 群雄割拠のご時世、国の戦力増強のため新たに新兵を募集したが、

「子供の入塾式があるので、休ませて下さい」

 仕事休んでまで、いくのか?

「休日出勤ですか?明日は有名歌舞伎公演があるので、来られません」

 仕事より歌舞伎を取るのか?

「母がそんなに辛いならお勤めやめろって言うから、辞めます」

 ……………

「俺はこんな仕事をするために、来たのではありません」

 お前まだ何にも仕事やってないだろ?!

「何故時刻通りに帰ってはいけないのですか?残業手当でますよね?」

 お前の仕事が遅いからだろ!!

「え?花見の場所取り?何で俺がやらないといけないんですか?それ、仕事じゃないでしょう?」



…………最近の若い奴らは


「………で、何故入隊六年目の二番隊副隊長・撃剣師範の俺が、花見の場所取りに行かなくてはならないのだ………」

 代々、城の近衛兵を務めてきた原家の二男蜂文は、桜舞い散るゴザの上であぐらをかいて空を見上げた。

 毎年各隊で、争奪然となる特等席を奪い合い、時には刃を交えることもしばしば………

 だからこそ!特等席をとった新兵には、仲間からの羨望と、自身と誇りが与えられ、皆この一大行事に立候補し!この栄誉ある席取り係になることに命を懸けていたのに………

「明け一で来たのは、俺だけか………」

 百年桜の特等席が、すんなり二番隊のものになるとは………

 坂の下から、丸めたゴザを背負って、一番隊副隊長・山﨑がやってきた。

「よう!二番隊も副隊長自らですかい?」

「そちらの隊も副隊長自らご苦労様」

 同期の山﨑は、隣でゴザを転がして広げた。

「今年の新入りは権利だけは主張するくせに、こういう恒例行事や慣例には参加しねえし。あれだあれ!巷で流行のでもくらしー」

「でもくらしー?なんだそりゃ?」

「そういや、原。下で、宴会始めてた妙な一団がいたが、許可取ったか?」

 全く、最近の奴らは!
 恐れ多くも、殿のお膝元で、無礼千万!!

「………ちょっと、職質かけてくる……」

 立ち上がって、刀を腰に差す。

「あれ?原先輩、場所とってくれたんですか?すみませ~ん」

 今頃、のこのこ手ぶらで坂を上がってきたのは

「今年首席で合格した、帯刀仁君。確か今日は、歌舞伎があるからって休むんじゃなかったのか?」

「はい。そのつもりだったのですが、父が「栄えある花見の席取りに行かぬとはなんたる所存!」って、怒るもんですから、来ました。なんかすることありますか?」

「ねえよ」

「あるよ!」

 ふいに、山﨑が刀を抜いた。

「そこ、一番隊も狙ってるから、席取り恒例!試合に勝って横取り大作戦を発動いたします。君、剣も強いんでしょう?首席なんでしょう?」

 山﨑がにやにや刀を帯刀に突きつける。

「じゃあ、帯刀後は頼んだ。花見席死守しろよ!」

 帯刀はため息ついて

「意味分かんないんですけど………何でそんなことしなければならないんですか?真剣なんて、怪我したら労災下りるんですか?これって、ぱわはらですよね?御役所に訴えますよ?」

山﨑は笑顔のままで

「………原、お前のトコの主席の優秀な新入り、本気で斬ってもいいか?」

「ご自由に。屍は百年桜の根元にでも埋めといてくれ。来年はよりいっそう美しく咲くんじゃないのかい?」

「そりゃ、来年の花見が楽しみだわ。行くぞ!帯刀!!」

「え?!ウソでしょう!先輩!!原先輩!!!」

 こんな時だけ、俺に頼るなアホが


 振り返らずに、数歩進んで、嫌な予感がした。

 血の臭い


「………最近の若い奴は、真剣の戦い方も知らんのか。普通、止めるだろ?本気で斬る奴がいるか………」

 帯刀は血のついた刀を持ったまま、奇妙な叫び声を上げて、坂を駆け下りて行った。

 山﨑は地面にうつぶせで倒れこんだ

「山﨑!?」

 地面に鮮血が広がる。

 駆け寄ると

「………まだ、死んじゃいねえよ。あいつ先につかまえろ………」


下から、女の悲鳴が聞こえた。

「死ぬなよ!」

 坂を駆け下りながら、桜がきれいなのは、桜の下に死体があるからって、祖父にきいた昔話を思い出した。

「縁起でもねぇ」

 
 途中で逃げてくる女二人とすれ違う。

「怪我はありませんか?!」

 黒髪を後ろで一つに結んだ、白い着物の女が立ち止まる。

「大丈夫です。それより、あなたと同じ羽織のお侍が斬りかかってきて」

「申し訳ない。初めて人を斬って錯乱しているんです。すぐ、始末します」

「ダメよ!」

 もう一人、腰まである髪を高く結った巫女装束の女が持っていた扇で、百年桜をさした。

「あの人の中に桜のおばあさんがいるから」

 






更新日:2012-04-03 18:09:32

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