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それでも地球は回っている~夢摘~

 ぱそこんのぐぐるあーすに導かれ、由比、鼓子、ミハイル、彼方はさらに南へと馬に揺られながら下って行った。

 原蜂文の助言を元に、一行は怪しまれないように装束を変えた。今まで無事に来られたのが奇跡だと、蜂文は半分呆れていたが………

「やっぱり~旅一座が一番だと思うの!彼方の旅一座は超人気だったから、関所もすんなり通れたし!」

 彼方の提案で、由比は武蔵坊弁慶、ミハイルは富樫左衛門、鼓子は源義経、彼方は静御前に扮して、関所の列に並んでいる。

「私の富樫さんて誰なんですか?」

 ミハイルが、彼方を慕う若殿から貰った茶色の馬上で、ずれた烏帽子を直す。

「逃げる義経を捕まえようとする、関所の役人さんです!蜂文様がいたらぴったりの役だったのにな~」

「………彼方ちゃん、またたいむりーな演目できましたね………」

 きりりと、美少年義経姿の鼓子が、黒兎馬の背であくびをした。

 列の後ろから、由比が荷車を引いて、戻ってきた。旅一座の荷を載せる荷車があった方が怪しまれないだろうと、近くの農民から、彼方の馬一頭と交換してきたのだ。

 馬四頭(この内の一頭は荷車を引いている)に荷車。ちょっと、贅沢旅一座の出来上がり!


 関守は、彼方の美しすぎる静御前と、美少年義経鼓子を眺めて、

「よし、通れ。今宵、領主の館へ来いとの仰せだ」

 彼方はかしずいて、

「ありがたき幸せに存じます。領主様によろしくお伝え下さいませ」

と、妖艶に微笑んだ。

 関守は、唾を飲み込んで

「うむ。して、荷車の牛は牛車の役者であろうか?」

「牛?」

 由比が、荷車のほろをめくると、まだら模様の牛の装束がぴょんっと飛び出した。

「はい!牛若丸参上!!」

 由比はすかさず、牛を荷車の影に連れ込んで

「誰だ?どこの子供だ?親はどこだ?」

 全身牛のもこもこの装束をまとって、顔の部分だけ丸く開いている。そこから、黒縁めがめの顔が覗いている。

「………旦那、訳あってこん格好しちょっけど、あやしいもんじゃないかい、一緒に関所通らして!」

「………十分怪しいが………」

「………旦那たちも十分怪しいが、一緒に通らせんかったら、関守の友次郎にばらすぞ!友次郎~!!こいつら、むぐ………」

 由比は慌てて牛の口をふさいで、荷車に投げ入れた。

「彼方殿!参りましょう!!」

 精一杯の愛想笑いで、由比は荷車の馬の手綱をとって馬に鞭入れた。




 関所が見えなくなったところで、由比は荷車を止め、ほろをめくった。

「………いない」

 ミハイルが、隣で覗き込む。

「さっきの牛さんは、何だったんでしょうね?」

 鼓子は、すっかり慣れた様子で、黒兎馬の背から降りて、

「あんな精巧な牛の装束初めて見ました。しかし、暑いですね。どこか木陰で、ご飯にしませんか?見たところ、山道ばかりで、お店も宿も無さそうだし………」

 関所を抜けて、くねくねの細い道が山の方へ続いていた。遠くに立派な屋敷が一軒見えるが、その他は、見渡す限りの山と、ぽつぽつ田や畑が点在している。


「でも、関所があんなに混んでいるのですから、この先に何かあるんでしょうね?」

 ミハイルは烏帽子を取って、ぱたぱた仰いだ。


 彼方は白馬に跨ったまま、山道の先を見つめてつぶやいた。


「………大変、何かが怒っている。土が泣いてる」



 彼方の目の前で、娘が泣いていた。
 

 『暑くて、澱んで、もうはち切れそう
 
 でも、絶対にいや
 
 ………など、二度となりとうない!!』

 ふいに、娘は消え、男が彼方に手を差し伸べた。




 笑った男の手に、短刀が握られ、彼方の腹を刺した。

「………夢摘は僕の夢を摘む。どうしてただのかわいい私の夢摘であっってくれなかったんだ?」  

 男が消えた。


 彼方にしか見えない、遠い日の幻。

 


 彼方は、腹部を押さえて、馬から転がり落ちた。

「彼方殿!!」

 由比が受け止めると、何か言いかけて気を失ってしまった。


 後ろから、荷車を引いた男たちが歩いてきた。

「この辺りに宿はありませんか?病人が出まして!!」

 鼓子が駆けよると、男たちはのんきに笑って

「こん村は、土竜が這いずり回る探鉱の村じゃかい、人殺しの武器は作っても、人を助けてはくれんよ。………ああ、牛んとこならとめてくれっかも」

「………牛……」

「こん道をずー(真っ直ぐ)行って、最初ん角をひー(左)行って、みー(右)よ!」

 そう言って、荷車を押して行ってしまった。

「………ずーいって、ひーいって、みー?ミハイルさん分かりました?」

 鼓子が訪ねても、ここにいる誰にも解読不可能だった。




 
 

更新日:2013-06-13 16:49:09

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