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度重なる天変地異の影響で、代々続いた祖父の畑は、作物はおろか雑草さえ育たない土壌に変質してしまった。

それでも祖父は、色々な品種の作物を試しながら、畑の再生に懸命に取り組んでいた。

当時中学生だった私は、両親から常々祖父の話を聞かされていたこともあって、帰省した際に実家の縁側で祖父と二人きりになった時、あまり深く考えないまま祖父に酷な質問をしてしまった。
「じいちゃんは無駄なことをしているとは思わないの? 虚しくならないの?」と。



祖父は温和な表情を浮かべたまま、目の前に広がる畑を見つめながら、少しの間黙っていた。

それから私にこう言った。
「毎朝畑を回って、なんも芽を出さんの見るんは、本当に辛いわな…そんときは、まっすぐ家さ帰って、布団ば頭から被りたくなるような気持ちだで」

「…ただな、じいちゃんはな、もう一度畑さじっくり見るんだわ。そんでな、ゆっくりと目っさ瞑るんだ。すっとな、頭ん中にたっくさんの作物が畑一杯実っているところば浮かんでくるんだわ……よっしゃ、またがんばんべえって、元気さ出てくるんだな」

そして、ちょっとはにかんだ顔で、「ヨシカツよ…生きるっちゅうことは、こんさことかもしんねえな」とも言った。

祖父は夢叶わないまま七年前に亡くなったが、最後の表情はとても穏やかだった。

更新日:2012-02-16 23:07:01

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