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 今は深夜。
 無人のはずのその場所に明かりがともっていた。

 窓からそっと覗くと、俺の事をいつも可愛がってくれていたジェーンおばさんが何かを作っていた。

 ジェーンおばさんならきっと大丈夫。

 俺は思い切ってリオンを連れて中に入った。
 おばさんはぎょっとしたように振り向いた。

「ど、どうなさいました王子? こんな遅くに……」

「え? うん。何か寝られなくて散歩してたらちょっとお腹すいちゃって。明かりがついてたから来てみたんだ」

「まあ、そうなんですか。相変わらずですね王子は。
 でもこんな時間におやつを差し上げたことがばれたら私が王妃様にしかられますよ」

 おばさんはいつものような優しい口調で言った。

「ところで王子、その女の子は?」

 おばさんがリオンに視線を向ける。
 あ、やっぱり駄目だったか。何とか男の子に見えると思ったんだけどなぁ。

「……うん、昨日来た遊戯団の見習いの子なんだけど、国元が恋しいって泣いてたから一緒に連れてきたんだ」

「そういえば以前にもそういう事がありましたねぇ。
 はい、お嬢ちゃん、お菓子をどうぞ。」

 ジェーンおばさんはオーブンから焼きたての菓子を出してリオンに渡した。

「ええ~!! 俺には駄目なのに、リオンにはいいのかよ」

「あたりまえです。
 この子にあげても私は別に怒られませんから。
 あなた、リオンちゃんっていうの? まぁ、可愛いわねえ、色白で目が大きくてお人形さんみたい。
 ほんとにここの王家の方々は面食いなんだから」

 何? ジェーンおばさん。
 そういう風にじと目で見るのはやめてほしい。
 本当はリオンは弟なんだってば。

「ね、おばさん。おばさんの方こそこんな時間にどうしたの?」

 そう聞くとおばさんは少し口ごもった。

「……その、私は料理人だからね、昼夜を問わず研究しなくちゃならないのさ」

 そう言いつつ、すぐ後ろにある銀のトレーを隠すように立つ。
 見覚えのあるそのトレーは俺が毎朝リオンのかわりに受け取っていたものだ。
 どうやら地下の秘密部屋に食事を吊り下げていたのはジェーンおばさんだったようだ。

「王子、ウロウロするのも社会勉強だと思うけど、世の中にはウロウロしたくても出来ない子供もいるんだよ。
 お菓子を食べられない子供もね。
 さ、こんなところで油売ってないで部屋に帰った帰った!!」

 おばさんは俺を追い返そうとする。

 いや、帰れないんだって!!
 俺たちこれから家出するんだって!!
 どうしたものかと思っていると突然厨房のドアが勢いよく開け放たれた。
 やってきたのはよく顔を知っている下級兵士だった。

「王子!! どうしてこんなところへ!!」

 兵士は驚いたように叫んだ。
 ……しまった。何か不測の事態が起こったようだ。
 もしかして……バレた?

「……おまえこそこんな夜中に厨房に飛び込んでくるなんてどうしたんだ? 腹でもへったのか?」

 動揺を悟られないよう兵士に聞くと彼は敬礼して事情を報告した。

「王子、実は城内に魔導を使う他国の少年神官が侵入したようです。今、王命によりその賊を探しているところです」

 げ。
 やっぱりバレてる。

更新日:2013-09-30 14:21:14

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滅びの国の王子と魔獣(挿絵あり)