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6 加也いわく




「ご近所に疎い、
なんて嘘じゃん。
加也の名前知ってた、あいつ。」

「あの突き当たりの部屋だろ、長船って。
俺も知ってるよ。
若い子だろ。眼鏡かけたちょっとイケメンの。」

「ああいうの、好みなんだ?」

「…カリカリするのやめてくれ、疲れるから。」


…疲れるだけならいいのだが、
加也の「疲れる」は鬱の前兆なので、
早弥はイライラを噛み潰した。

「このマンションであの若さで一人暮らしは目立つな。」
「まあね。僕もそう思ったよ。」
「声かけられたんだ。」
「そう。それで、居座るのは契約違反だろって脅された。」

「大家からなんか言ってきたら考えればいい。
今はまだいいだろ…なにも考えられない。」

「…でもいう気はないっていってた。」
「…なんだ、そう…」
「何がなんだなの。」

「…早弥口説かれたんだよ。可愛いから。
弱み握ってるんだぜ、少しは意識してくれよ、
ってアピールだろ。鈍いなあ。」


加也はそう言って暗い目で窓を見た。


「そうかな?!」
「そうだよ。
女だと思ってたって言ったんだろ。
惚れてたんだよ。」


早弥は意外な言葉に驚き、呆然とした。


「だってごみ出しで少し会ったことあるだけだよ?!」

「…響くから大声だすな。
…一目ぼれだろ。お前女に混ざっても、美人だからな。」

「でも女装なんかしてない。」
「ボーイッシュな女だと思ったんだろ。
よかったじゃないか、男だと訂正できて。
ご近所とケンカするなよ。」


加也は億劫そうにそういうと、
読んでもいなかった新聞をたたんで
新聞入れにシュートした。

新聞はきれいに枠の中におさまった。


更新日:2012-02-05 20:18:48

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