- 64 / 189 ページ
その頃、私の知らないところで起こった戦争は、禁門の変、と呼ばれる歴史的な事件となった。どういう事情があったのか知る由もないけれど、尊皇を唄う長州の過激派浪士たちが、御所に打ち入ったものだという。
近藤さんの率いる新選組は、幕府側の機関の情報伝達が悪くて無駄に時間を費やす結果となり、やっぱりというか、活躍らしい活躍も出来なかったという。
「江戸時代」と後に呼ばれるようになるこの時代には、戦争らしい戦争なんてなかったものね。
戦国の世が終わって二百年か。
それは一口で言うほど短い時間じゃなかったはずだもの。そうよ、考えてみたら私たち平成の時代だって明治維新が起こってから二百年も経っていないんだもの。それで、あんなに変化があったんだから、今、幕府の色んなシステムがうまく立ち行かないのも当然といえば当然なのかもしれない。
そんな古いシステムが軋みを立てて混乱を引き起こしていた中、新選組の皆んなにはいくつかの出会いがあったという。
いやいや、出会いとか、そんな良いもんじゃなくて、それは「遭遇」と呼ぶのに等しいものだと思う。
土方さんが刃を交えたという男は、驚いた事にあの池田屋で沖田さんと戦った男だった。
風間千景。
その男は、そう名乗り、薩摩藩に属していると言ったという。
同じ薩摩の男だという天霧九寿。
彼もまたあの夜は池田屋にいて、平助くんの額を割って逃走した男らしい。
だとすると、あの時、池田屋で、長州の会合をこそりと見張っていたのは薩摩藩だという事になる。明治維新は薩摩と長州の連合軍が起こした戦争だというイメージしかもっていなかったからちょっと驚いた。もっとちゃんと歴史を勉強していたらよかったな。
それから、そんな長州の人たちを守って闘った男がいたという。
不知火匡という男。彼と対峙した原田さんは、その男が普通ではないことを感じたという。
彼らは決して新選組の味方ではなく、むしろ、強大な敵であると認識していいと、これは土方さんが言った言葉だ。
彼らと闘う事になれば、新選組も大きな被害を受けるだろう、と。
あの土方さんにそんな事を言わしめる彼らって、一体、なに?
私は彼らを知らない。会った事も、ましてその名前を聞いた事すらない。なのになんでだろう、その響きはすんなりと身体に沁み込んでいく。知らないはずなのに、ずっと前から知っていたような気がする。
胸がざわつく。
私は、やっぱり京に来てから壊れちゃったんじゃないのかな。こんなの変だよ・・・
私の小さな感慨なんかどこ吹く風、時代は大きくうつろいゆく。
禁門の変を主導した長州の指導者たちは戦死し、または、自ら腹を切って息絶えたという。だけども、逃げおおせた者たちもたくさんいて、その中には、京の町に火を放った者がいたという。
運悪く、北から吹いていた風は御所の南方を焼け野原に変えてしまった。
そしてこの騒ぎが原因で、尊皇攘夷の国事犯たちがいっせいに処刑されたとも聞いた。
新選組は、戦では活躍できなかったものの、京から離れる許可をもらい、大阪から兵庫県のあたりにかけてを警衛する事になった。乱暴を働く浪士たちを取り締まり、周辺に住む人達の生活を守ることが目的だった。
ただでさえ人手不足の隊は、日常の市中警邏にすら困るくらい大忙しになったけど、治安を守る事を仕事とする彼らはなんだかんだと言いながらその仕事を全うした。
彼らの、仕事に対する誇りってすごい。
ほんと、鬼気迫るものがある。
私はただあたふたとして翻弄されるばかりだったけど、そんな彼らの手伝いが出来た事はそれなりの自信を付けてくれて、それが、私の小さな誇りにもなっていった。
禁門の変。
それは、長州藩が朝敵として扱われるきっかけとなった事件。
そして、私が「変」な子だと、気が狂っちゃったんじゃないかと認識させられた事件でもあった――
~ 薄桜鬼 第一部 完 ~
近藤さんの率いる新選組は、幕府側の機関の情報伝達が悪くて無駄に時間を費やす結果となり、やっぱりというか、活躍らしい活躍も出来なかったという。
「江戸時代」と後に呼ばれるようになるこの時代には、戦争らしい戦争なんてなかったものね。
戦国の世が終わって二百年か。
それは一口で言うほど短い時間じゃなかったはずだもの。そうよ、考えてみたら私たち平成の時代だって明治維新が起こってから二百年も経っていないんだもの。それで、あんなに変化があったんだから、今、幕府の色んなシステムがうまく立ち行かないのも当然といえば当然なのかもしれない。
そんな古いシステムが軋みを立てて混乱を引き起こしていた中、新選組の皆んなにはいくつかの出会いがあったという。
いやいや、出会いとか、そんな良いもんじゃなくて、それは「遭遇」と呼ぶのに等しいものだと思う。
土方さんが刃を交えたという男は、驚いた事にあの池田屋で沖田さんと戦った男だった。
風間千景。
その男は、そう名乗り、薩摩藩に属していると言ったという。
同じ薩摩の男だという天霧九寿。
彼もまたあの夜は池田屋にいて、平助くんの額を割って逃走した男らしい。
だとすると、あの時、池田屋で、長州の会合をこそりと見張っていたのは薩摩藩だという事になる。明治維新は薩摩と長州の連合軍が起こした戦争だというイメージしかもっていなかったからちょっと驚いた。もっとちゃんと歴史を勉強していたらよかったな。
それから、そんな長州の人たちを守って闘った男がいたという。
不知火匡という男。彼と対峙した原田さんは、その男が普通ではないことを感じたという。
彼らは決して新選組の味方ではなく、むしろ、強大な敵であると認識していいと、これは土方さんが言った言葉だ。
彼らと闘う事になれば、新選組も大きな被害を受けるだろう、と。
あの土方さんにそんな事を言わしめる彼らって、一体、なに?
私は彼らを知らない。会った事も、ましてその名前を聞いた事すらない。なのになんでだろう、その響きはすんなりと身体に沁み込んでいく。知らないはずなのに、ずっと前から知っていたような気がする。
胸がざわつく。
私は、やっぱり京に来てから壊れちゃったんじゃないのかな。こんなの変だよ・・・
私の小さな感慨なんかどこ吹く風、時代は大きくうつろいゆく。
禁門の変を主導した長州の指導者たちは戦死し、または、自ら腹を切って息絶えたという。だけども、逃げおおせた者たちもたくさんいて、その中には、京の町に火を放った者がいたという。
運悪く、北から吹いていた風は御所の南方を焼け野原に変えてしまった。
そしてこの騒ぎが原因で、尊皇攘夷の国事犯たちがいっせいに処刑されたとも聞いた。
新選組は、戦では活躍できなかったものの、京から離れる許可をもらい、大阪から兵庫県のあたりにかけてを警衛する事になった。乱暴を働く浪士たちを取り締まり、周辺に住む人達の生活を守ることが目的だった。
ただでさえ人手不足の隊は、日常の市中警邏にすら困るくらい大忙しになったけど、治安を守る事を仕事とする彼らはなんだかんだと言いながらその仕事を全うした。
彼らの、仕事に対する誇りってすごい。
ほんと、鬼気迫るものがある。
私はただあたふたとして翻弄されるばかりだったけど、そんな彼らの手伝いが出来た事はそれなりの自信を付けてくれて、それが、私の小さな誇りにもなっていった。
禁門の変。
それは、長州藩が朝敵として扱われるきっかけとなった事件。
そして、私が「変」な子だと、気が狂っちゃったんじゃないかと認識させられた事件でもあった――
~ 薄桜鬼 第一部 完 ~
更新日:2012-02-26 20:29:37