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「お店をたたんだり、荷物を片付けたりしていて・・・ 引越しでもするんでしょうか」

「戦渦に巻き込まれまいと、京から避難し始めてるって事か」

「戦渦・・・ですか?」

 原田さんの言葉に首をかしげると、永倉さんが口を開く。

「そういや、千鶴ちゃんには教えてなかったけな。長州の奴らが京に集まって来てんだよ。その関係で、俺らも警戒強化中ってわけだ」

「池田屋の件で長州を怒らせちまったからな。仲間から犠牲が出れば、黙ってられないだろ?」

「それはそうかもしれませんけど・・・ それじゃあ、堂々巡りですね」

 私の答えに、二人は私の頭上で目を合わせた。

 へ、へんな事を言ったかな・・・

 だけどそうじゃなかったみたい。その返事を二人は気に入ってくれたみたいだった。私もほっとして、このところずっと思っていた疑問を口にしてみる。

「京の人たちは、私たちが長州を怒らせて戦争を起こそうとしてるって思っているんでしょうか。視線が粘っこいと言うか、居心地が悪いと言うか・・・」

 と、永倉さんが笑った。

「京の人間は、根本的に幕府嫌いだからな。気にするこたねえよ。そう思っている奴もいる事は居るだろうが、戦争を仕掛けてこようとしているのは俺たちじゃなくて長州の奴らなんだから、俺たちが縮こまる必要なんかねえ」

「ああ。」

 原田さんが頷く。

「俺たちは俺たちの仕事をする。長州の連中が京に来ても追い返すだけさ」

「・・・はい!」

 ポジティブだなぁ!
 この二人と居ると、私も元気になれる気がする。父様が見つからないのも、それは現実のひとつとして受け止めて、その現実の中で、今出来る事をやる。それをさらりとやってのける事の出来る人が大人なんだ。
 言葉じゃなくその態度で、行動で、そう教えてくれている。
 彼らは大人だ。なんて頼りになる。

 そう思った時、ふと、池田屋事変の夜の土方さんの背中が目の前に浮かんだ。

 びっくりして、思い切り頭を振ってその残像を振り払うと、永倉さんと原田さんは気付かなかったようだけど、他の隊士さんが変な顔をして私を見ていた。
 まずいまずい。ただでさえ正体不明の怪しい子供なのに、変な子供に昇格しちゃう。

「対長州か・・・ もしかすると近いうちに、上から出動命令が出るかも知れねぇな」

「そんな機会、滅多に無いだろうな。どうだ千鶴。せっかくだから、お前も出てみるか?」

「え?」

 そして原田さんから唐突に言われ、その意味に頭の理解が追いつくまでたっぷり七秒はかかった。

「えっ!?」

 つまり、新選組の上司、会津から正式な出動命令が下った時に私も一緒に出動するか、と彼は聞いているのだ。私は大慌てで両手を振りながら、後退った。

「そ、そんな晴れ舞台! 正式な隊員でもない私が行っちゃいけないと思います!」

「お前、変なところで真面目だなぁ!」

 永倉さんが笑ったけど、笑いこっちゃない。

「皆さんに迷惑を掛けたくないですから」

 その返事には、二人とも複雑な顔を見合わせて肩をすくめただけだった。

更新日:2012-02-24 21:43:46

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