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そう確信を深める私を置いて、その意地悪な人は話を進める。
「総司、平助。今日の巡察はお前らの隊だったな」
「なるほどね~ だから当番のオレらが呼ばれたってわけか」
平助くん。納得したわりに、彼の背中は少し困っているように左右に揺れた。
「残念だけどさ、今回はオレより総司向きじゃないかな。今日は総司の一番組が昼の巡察を担当だろ」
「平助の八番組は夜担当だし、夜より昼が安全だっていうのは僕も同じ意見」
平助くんの言葉に頷いてから、沖田さんは私に視線を移して、いたずらっぽく笑う。
う。
この視線はまた何か余計な事を言う前触れだ。私だけなら笑って聞き流してあげられるけど、真面目な土方さんはそうもいかないよ。やめとけば、と視線で訴えたが、もちろんその忠言は聞き入れられなかった。
「でも、逃げようとしたら殺すよ。浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」
「いいわけねぇだろうが、馬鹿。何のためにお前に任せると思ってんだ」
案の定、怒られて沖田さんは舌を出した。
「でもまぁ、何が起きるかわからないのは本当だから。危険を承知でついて来るって言うなら、僕の一番組に同行してくれて構わないよ」
「はい」
「だけど、」
寸の間、彼は考える。
「君の雄姿をもう一度見られるというのなら、浪士に絡まれた時に放っておくのもいいかもね。毎日きっちりと修行しているんだからさ、少しは暴れてみたいと思わない?」
「それが必要なら」
からかわれていると分かっていたけど、私も私だ、くそ真面目に答えてしまったら、沖田さんは何故だか嬉しそうに唇の端を上げた。
土方さんの呆れたため息が耳に痛い。
「・・・長州の連中が不穏な動きを見せている。本来なら、お前を外に出せる時期じゃない。だが、」
と、表情を引き締めた彼はつとこちらを見やり、すぐに視線を外してから、少し迷いの見える瞳を伏せがちに言った。
「江戸の家にも帰ってねぇらしいし、京の街中でそれらしい人物を見たっていう証言も上がっている。機会を見送り続けたんじゃあ、このまま進まねえだろ。それに、」
それが、父様の事を言っているのだと気付いた時、彼はこう付け加えて言葉を閉じた。
「半年近くも我慢させたしな」
「・・・・・・」
なんかのドッキリかと思った。
この半年、ろくに目も合わせなかったこの人が気詰まりしていた私の事をちゃんと分かっていた?
放ったらかしにしている事をちゃんと自覚していた?
嘘。
何の冗談かと思う。
言葉を失う私を見て・・・
自覚は無かったけど、表情を強張らせていたか、また睨みつけるかしていたんだろう。平助くんが慌てて私の頭をぐっと押さえつけ、平伏させた。
「あ、ありがとな土方さん! こいつもすっげえ感謝しているってさ。びっくりしすぎて言葉が出ないらしいけど、喜んでるって、マジ、本気で」
じたばた。
私は別の意味でびっくりして手をばたつかせる。あわわと戸惑った声が振ってきて、更に強く押さえつけられた。
「そ、それに今は腹を壊している隊士も多いしなー! オレらも万全の状態じゃないし、こいつの変わった剣法は役に立つよ。な、千鶴」
ぎゅうぎゅう押さえつけられて返事が出来ますかっ。
って言うか平助くんも慌て過ぎて、いまひとつ何を言っているのか分らなくなってきている。
そうしたら、土方さん、今の私にその顔は見えないけれども、かなり深い渋面をしているんだろうと思わせる声で、
「とにかく、俺は許可を出してやる。行くか行かないかはお前が好きに判断しろ」
言った。
「行きますっ。私は行きます!」
その、今更ながらに突き放した言い方が癇に障ってしまった。平助くんを突き飛ばす勢いで顔を上げた私がそう訴えた時、彼はすでに背中を向けて文机に向かっていた。
向かっていて・・・返事もしなかった。
「総司、平助。今日の巡察はお前らの隊だったな」
「なるほどね~ だから当番のオレらが呼ばれたってわけか」
平助くん。納得したわりに、彼の背中は少し困っているように左右に揺れた。
「残念だけどさ、今回はオレより総司向きじゃないかな。今日は総司の一番組が昼の巡察を担当だろ」
「平助の八番組は夜担当だし、夜より昼が安全だっていうのは僕も同じ意見」
平助くんの言葉に頷いてから、沖田さんは私に視線を移して、いたずらっぽく笑う。
う。
この視線はまた何か余計な事を言う前触れだ。私だけなら笑って聞き流してあげられるけど、真面目な土方さんはそうもいかないよ。やめとけば、と視線で訴えたが、もちろんその忠言は聞き入れられなかった。
「でも、逃げようとしたら殺すよ。浪士に絡まれても見捨てるけど、いい?」
「いいわけねぇだろうが、馬鹿。何のためにお前に任せると思ってんだ」
案の定、怒られて沖田さんは舌を出した。
「でもまぁ、何が起きるかわからないのは本当だから。危険を承知でついて来るって言うなら、僕の一番組に同行してくれて構わないよ」
「はい」
「だけど、」
寸の間、彼は考える。
「君の雄姿をもう一度見られるというのなら、浪士に絡まれた時に放っておくのもいいかもね。毎日きっちりと修行しているんだからさ、少しは暴れてみたいと思わない?」
「それが必要なら」
からかわれていると分かっていたけど、私も私だ、くそ真面目に答えてしまったら、沖田さんは何故だか嬉しそうに唇の端を上げた。
土方さんの呆れたため息が耳に痛い。
「・・・長州の連中が不穏な動きを見せている。本来なら、お前を外に出せる時期じゃない。だが、」
と、表情を引き締めた彼はつとこちらを見やり、すぐに視線を外してから、少し迷いの見える瞳を伏せがちに言った。
「江戸の家にも帰ってねぇらしいし、京の街中でそれらしい人物を見たっていう証言も上がっている。機会を見送り続けたんじゃあ、このまま進まねえだろ。それに、」
それが、父様の事を言っているのだと気付いた時、彼はこう付け加えて言葉を閉じた。
「半年近くも我慢させたしな」
「・・・・・・」
なんかのドッキリかと思った。
この半年、ろくに目も合わせなかったこの人が気詰まりしていた私の事をちゃんと分かっていた?
放ったらかしにしている事をちゃんと自覚していた?
嘘。
何の冗談かと思う。
言葉を失う私を見て・・・
自覚は無かったけど、表情を強張らせていたか、また睨みつけるかしていたんだろう。平助くんが慌てて私の頭をぐっと押さえつけ、平伏させた。
「あ、ありがとな土方さん! こいつもすっげえ感謝しているってさ。びっくりしすぎて言葉が出ないらしいけど、喜んでるって、マジ、本気で」
じたばた。
私は別の意味でびっくりして手をばたつかせる。あわわと戸惑った声が振ってきて、更に強く押さえつけられた。
「そ、それに今は腹を壊している隊士も多いしなー! オレらも万全の状態じゃないし、こいつの変わった剣法は役に立つよ。な、千鶴」
ぎゅうぎゅう押さえつけられて返事が出来ますかっ。
って言うか平助くんも慌て過ぎて、いまひとつ何を言っているのか分らなくなってきている。
そうしたら、土方さん、今の私にその顔は見えないけれども、かなり深い渋面をしているんだろうと思わせる声で、
「とにかく、俺は許可を出してやる。行くか行かないかはお前が好きに判断しろ」
言った。
「行きますっ。私は行きます!」
その、今更ながらに突き放した言い方が癇に障ってしまった。平助くんを突き飛ばす勢いで顔を上げた私がそう訴えた時、彼はすでに背中を向けて文机に向かっていた。
向かっていて・・・返事もしなかった。
更新日:2012-02-17 21:34:16