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「そのことで、みんなに話があるんだ」
カーライルが突然、真剣な顔になる。
「せっかく迎えに来てくれたんだけど、サラが元気になったら、みんなで帰ってくれ。僕はここに残る」
みんなが驚きの表情になる。
「なんでだよ、帰りたくないのか?」
「いや、そんなことはないけど、考えて見てくれ、竜の王のものは、僕と、サラに継がれたんだ。ここの時代の人ではなく。
――もし、二人とも帰ってしまったら、いや、力を受け継いだのは僕だ。僕が帰ってしまったら、トゥレニはどうなる? トゥールーンは? トゥールーンなしで、カルサールはこの美しい姿のままで守られていくと思うか?
……それだけじゃない。僕や君たちが生まれるかどうかもわからない。
最悪の場合、向こうに着いたとたん消滅、なんてこともあるかもしれないんだ……」
みんなが言葉を失った。
「リ……アナ……は?」
かすれた声を絞り出す。
「そうよ、リアナはどうするつもりなの? ずっとあなたを思い続けているんでしょう? 会わないつもり?」
カーライルが肩をすくめる。
「いや、それはぼくも困るよ。だから……」
「わかりました」
ユーリがくすっと笑った。
みんながユーリを見る。
「なるほど、それなら納得です。姉に伝えます。彼女は必ず来ます」
「あ……」
――そうか、リアナをここに呼ぶのね。うん、彼女なら必ず来るに違いない。
「ありがとう、それだけが不安だった」
カーライルが笑顔になった。
それから、あたしは少しずつ力をつけ、元気を取り戻し、十日もしないうちに、歩けるようになった。
その間、ユーリはずっとそばにいてくれたけれど、他のみんなは、地震で倒壊してしまったり、波に流されてしまった家を建て直したりするのを手伝っていた。
あれから何度か地震はあったけれど、大きな波が襲うことはもうなかった。
母は、赤ちゃんを抱いて、同じくらいの赤ちゃんを持つ母親に、もらい乳をしながら、毎日遅くまで父親や他の家族を探して回ったが、とうとう見つからないままあたしたちの時代へ帰る日がきてしまった。
「それじゃあ、みんな、元気で。義姉さん、兄さんによろしく伝えて」
「必ず伝えるわ。今までありがとう。カーライル、赤ちゃんをよろしくね」
「頑張るよ、でもリアナに早く来てって伝えて。僕一人で世話するのは三日くらいが限度だ」
「ごめんね、あたしのせいで……カーライルだけ」
「何言ってるんだ、僕が望んで決めたことだ。ぼくはここでの暮らしがとても気に入ってる。
それから、ここでトゥールーンを持つ者が生まれれば、ぼくだってそっちに行くことができるようになるんだ。気にするな」
カーライルがあたしの頭をぽんぽんとたたいた。
「あと、これをリアナに」
カーライルはゴソゴソとポケットから何かを出して、あたしの手に握らせた。
小鳥の卵ぐらいの琥珀のような石。中で、金色の輝きが流動している。
「これって、竜の瞳の石?!」
「そう、あのとき、竜の王が残したものだ」
カーライルが、もうひとつ手の上に乗せてあたしに見せてくれた。
「この不思議な輝き方はおんなじだけど、大きさがぜんぜん違うわ!」
カーライルはあたしの手からまた玉を取り上げ、ぐっと握りしめ、目をつぶった。
「これでいい?」
カーライルが再び手を開くと、玉は小さくなり、指輪の形になっていた。
「これ、アンマ・ベアタの指輪……! すごい、カーライル」
カーライルが得意げに片目をつむって見せた。
「必ず渡します。姉をよろしくお願いします」
「きみも僕の大事な姪をよろしく頼むよ」
ユーリとカーライルが固く握手する。
「みんなも、サラを支えてやってくれ。未来のカルサールをたのんだよ」
そして、あたしたちは、みんなで手をつなぎ、一緒に「帰りたい」と強く念じた。
玉は、あたしたちの願いを聞き入れ、あたしたちは、あたしたちのカルサールに戻ったのだ。
カーライルが突然、真剣な顔になる。
「せっかく迎えに来てくれたんだけど、サラが元気になったら、みんなで帰ってくれ。僕はここに残る」
みんなが驚きの表情になる。
「なんでだよ、帰りたくないのか?」
「いや、そんなことはないけど、考えて見てくれ、竜の王のものは、僕と、サラに継がれたんだ。ここの時代の人ではなく。
――もし、二人とも帰ってしまったら、いや、力を受け継いだのは僕だ。僕が帰ってしまったら、トゥレニはどうなる? トゥールーンは? トゥールーンなしで、カルサールはこの美しい姿のままで守られていくと思うか?
……それだけじゃない。僕や君たちが生まれるかどうかもわからない。
最悪の場合、向こうに着いたとたん消滅、なんてこともあるかもしれないんだ……」
みんなが言葉を失った。
「リ……アナ……は?」
かすれた声を絞り出す。
「そうよ、リアナはどうするつもりなの? ずっとあなたを思い続けているんでしょう? 会わないつもり?」
カーライルが肩をすくめる。
「いや、それはぼくも困るよ。だから……」
「わかりました」
ユーリがくすっと笑った。
みんながユーリを見る。
「なるほど、それなら納得です。姉に伝えます。彼女は必ず来ます」
「あ……」
――そうか、リアナをここに呼ぶのね。うん、彼女なら必ず来るに違いない。
「ありがとう、それだけが不安だった」
カーライルが笑顔になった。
それから、あたしは少しずつ力をつけ、元気を取り戻し、十日もしないうちに、歩けるようになった。
その間、ユーリはずっとそばにいてくれたけれど、他のみんなは、地震で倒壊してしまったり、波に流されてしまった家を建て直したりするのを手伝っていた。
あれから何度か地震はあったけれど、大きな波が襲うことはもうなかった。
母は、赤ちゃんを抱いて、同じくらいの赤ちゃんを持つ母親に、もらい乳をしながら、毎日遅くまで父親や他の家族を探して回ったが、とうとう見つからないままあたしたちの時代へ帰る日がきてしまった。
「それじゃあ、みんな、元気で。義姉さん、兄さんによろしく伝えて」
「必ず伝えるわ。今までありがとう。カーライル、赤ちゃんをよろしくね」
「頑張るよ、でもリアナに早く来てって伝えて。僕一人で世話するのは三日くらいが限度だ」
「ごめんね、あたしのせいで……カーライルだけ」
「何言ってるんだ、僕が望んで決めたことだ。ぼくはここでの暮らしがとても気に入ってる。
それから、ここでトゥールーンを持つ者が生まれれば、ぼくだってそっちに行くことができるようになるんだ。気にするな」
カーライルがあたしの頭をぽんぽんとたたいた。
「あと、これをリアナに」
カーライルはゴソゴソとポケットから何かを出して、あたしの手に握らせた。
小鳥の卵ぐらいの琥珀のような石。中で、金色の輝きが流動している。
「これって、竜の瞳の石?!」
「そう、あのとき、竜の王が残したものだ」
カーライルが、もうひとつ手の上に乗せてあたしに見せてくれた。
「この不思議な輝き方はおんなじだけど、大きさがぜんぜん違うわ!」
カーライルはあたしの手からまた玉を取り上げ、ぐっと握りしめ、目をつぶった。
「これでいい?」
カーライルが再び手を開くと、玉は小さくなり、指輪の形になっていた。
「これ、アンマ・ベアタの指輪……! すごい、カーライル」
カーライルが得意げに片目をつむって見せた。
「必ず渡します。姉をよろしくお願いします」
「きみも僕の大事な姪をよろしく頼むよ」
ユーリとカーライルが固く握手する。
「みんなも、サラを支えてやってくれ。未来のカルサールをたのんだよ」
そして、あたしたちは、みんなで手をつなぎ、一緒に「帰りたい」と強く念じた。
玉は、あたしたちの願いを聞き入れ、あたしたちは、あたしたちのカルサールに戻ったのだ。
更新日:2013-08-21 10:41:00