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第3章
城の庭に薔薇が香り始め、日差しがだいぶ眩しく感じるようになった。
クレアのおかげで四日に一度のユーリの休みの日には必ず彼があたしを連れ出してくれるようになり、アッシュたちと海や峡谷などカルサールの大自然を満喫している。
花祭りの時はユーリがバイオリンの腕まで披露してくれた。
勉強三昧の生活も、度々竜舎に行ったり騎士たちの訓練をのぞきに行ったりと、サボりながらもなんとかこなせるようになってきた。いつの間にか、あたしがカルサールに来てから一カ月が経とうとしている。
今日は、授業をサボろうと少し前から計画していた。騎士隊の対戦式の演習があるのだ。
いつも通りバルコニーから抜け出し、エトワールに乗って城を飛び出した。
ハマナスの花が満開の崖の上にたどりついたときには、すでに訓練は始まっていた。
三十騎くらいの竜が、ぶつかり合いながら飛び交っているのが見える。
対岸近くの小さな緑の島の上では、残りの待機中の騎士と竜たちが、声援と野次を飛ばしながら、今戦っている仲間たちを見上げていた。
ユーリにはここに来ることを止められていたけど、あたしはこの場所が好きだ。
もともと高いところは苦手じゃないし、ここはあたしに大自然の雄大さと力強さを感じさせてくれる。
今度は落っこちないように用心深く海にせり出した崖の際まで近づき、足を崖下に投げ出して腰を下ろした。
足先のはるか下の方で、海に流れ込む川の流れが複雑に入り組む岸壁にぶつかり合い、白いしぶきを上げているのが見える。
海風がその霧となったしぶきをのせて心地よく吹き上げ、火照った頬を冷やしてくれる。
気分爽快だ。クレアが見たら目を回しそうだけど。
飛び交う群れの方に目を凝らすと、真ん中近くで、四、五騎に囲まれているリュークとユーリを見つけた。
リュークは、ものすごいスピードで右へ左へ飛び回り、敵をかく乱させている。
ユーリはそのスピード感を楽しんでいるような余裕の表情で、流れるような動作で弓を構え、一発ずつ確実に矢を射ていく。
訓練用の矢なので刺さりはしないが、衝撃でバランスを失った敵の騎が次々と海に落ちていく。
アッシュはものすごいアクロバットを見せる。彼は、接近戦専門だ。
彼は、鞍に付けた取っ手のようなところにつま先をかけ、立ったまま姿勢を低くして敵の竜に狙いをつける。
そして、ある程度近づくと敵の騎に飛び移って剣で乗り手に襲いかかるのだ。
飛び移られる方はたまったものじゃない。飛びまわる竜の上で立って戦える騎士はそうはいないから、騎士はあっという間に落とされて、竜は大抵乗り手を助けるために海に飛び込むハメになる。
アッシュの竜、アクルは、とても小柄で、他の竜よりも二まわりくらい小さいが、それが武器となっている。
飛び交う竜の間をすばしっこくかいくぐり、アッシュが飛び込んでくる地点に先回りしてタイミングぴったりでキャッチする。
アッシュも、完全に自分の竜を信頼して、アクルの位置を確かめもせずに空に飛び込む。
ほとんど人間わざじゃない。
よほど賢い竜で、息がぴったり合っていなければできないことだ。
エイブとパーセノープは、双子ならではの抜群のコンビネーションで、霧と鋼のロープを巧みに操っている。彼らの作り出す濃霧は、敵騎の周りだけをぴったりと張り付くように覆ってしまう。竜が完全に視界を失くして暴れ、乗り手がコントロールを失ったところで、鋼のロープを使って敵騎を絡め取っていくのだ。
ふとあたしは、ユーリたちの隊に対し、敵が異常に多いことに気がついた。
竜の数を数えてみて、三小隊二十四騎もの軍勢をユーリたちの隊八騎だけで相手にしていることがわかった。
見ていると、それもそのはず、と納得できる。
ユーリたちは強すぎる。
他の騎士たちが、訓練通りの戦い方をするのに対して、ユーリたちの隊の戦い方はハチャメチャな気もするが、度肝を抜く攻撃と、見事なチームワークで、あっという間に敵は三分の一ほどになった。
あたしが、興奮して歓声を上げると、ユーリがあたしに気づいて目を丸くした。
何かいいたげに口をあけるがあたしには聞こえない。
ユーリが、こちらに気を取られている間に、すぐ後ろから敵がユーリ目掛けて矢を放った。
思わず目を伏せたくなる。
いくら先がまるいといっても、こんなに至近距離では、硬いうろこを持つ竜ならともかく、人に当たれば怪我をするのは確実だ。
しかし、ユーリは後ろに目が付いているかのようにヒョイとかわして、振り向きざまに矢を右手でキャッチした。
こちらも到底人間わざではない。
ユーリはつかんだ矢をそのまま美しい動線にのせて弓につがい、放った主に送り返した。
矢はみごと敵騎の左翼に命中し、乗り手もろとも海につっこんだ。
クレアのおかげで四日に一度のユーリの休みの日には必ず彼があたしを連れ出してくれるようになり、アッシュたちと海や峡谷などカルサールの大自然を満喫している。
花祭りの時はユーリがバイオリンの腕まで披露してくれた。
勉強三昧の生活も、度々竜舎に行ったり騎士たちの訓練をのぞきに行ったりと、サボりながらもなんとかこなせるようになってきた。いつの間にか、あたしがカルサールに来てから一カ月が経とうとしている。
今日は、授業をサボろうと少し前から計画していた。騎士隊の対戦式の演習があるのだ。
いつも通りバルコニーから抜け出し、エトワールに乗って城を飛び出した。
ハマナスの花が満開の崖の上にたどりついたときには、すでに訓練は始まっていた。
三十騎くらいの竜が、ぶつかり合いながら飛び交っているのが見える。
対岸近くの小さな緑の島の上では、残りの待機中の騎士と竜たちが、声援と野次を飛ばしながら、今戦っている仲間たちを見上げていた。
ユーリにはここに来ることを止められていたけど、あたしはこの場所が好きだ。
もともと高いところは苦手じゃないし、ここはあたしに大自然の雄大さと力強さを感じさせてくれる。
今度は落っこちないように用心深く海にせり出した崖の際まで近づき、足を崖下に投げ出して腰を下ろした。
足先のはるか下の方で、海に流れ込む川の流れが複雑に入り組む岸壁にぶつかり合い、白いしぶきを上げているのが見える。
海風がその霧となったしぶきをのせて心地よく吹き上げ、火照った頬を冷やしてくれる。
気分爽快だ。クレアが見たら目を回しそうだけど。
飛び交う群れの方に目を凝らすと、真ん中近くで、四、五騎に囲まれているリュークとユーリを見つけた。
リュークは、ものすごいスピードで右へ左へ飛び回り、敵をかく乱させている。
ユーリはそのスピード感を楽しんでいるような余裕の表情で、流れるような動作で弓を構え、一発ずつ確実に矢を射ていく。
訓練用の矢なので刺さりはしないが、衝撃でバランスを失った敵の騎が次々と海に落ちていく。
アッシュはものすごいアクロバットを見せる。彼は、接近戦専門だ。
彼は、鞍に付けた取っ手のようなところにつま先をかけ、立ったまま姿勢を低くして敵の竜に狙いをつける。
そして、ある程度近づくと敵の騎に飛び移って剣で乗り手に襲いかかるのだ。
飛び移られる方はたまったものじゃない。飛びまわる竜の上で立って戦える騎士はそうはいないから、騎士はあっという間に落とされて、竜は大抵乗り手を助けるために海に飛び込むハメになる。
アッシュの竜、アクルは、とても小柄で、他の竜よりも二まわりくらい小さいが、それが武器となっている。
飛び交う竜の間をすばしっこくかいくぐり、アッシュが飛び込んでくる地点に先回りしてタイミングぴったりでキャッチする。
アッシュも、完全に自分の竜を信頼して、アクルの位置を確かめもせずに空に飛び込む。
ほとんど人間わざじゃない。
よほど賢い竜で、息がぴったり合っていなければできないことだ。
エイブとパーセノープは、双子ならではの抜群のコンビネーションで、霧と鋼のロープを巧みに操っている。彼らの作り出す濃霧は、敵騎の周りだけをぴったりと張り付くように覆ってしまう。竜が完全に視界を失くして暴れ、乗り手がコントロールを失ったところで、鋼のロープを使って敵騎を絡め取っていくのだ。
ふとあたしは、ユーリたちの隊に対し、敵が異常に多いことに気がついた。
竜の数を数えてみて、三小隊二十四騎もの軍勢をユーリたちの隊八騎だけで相手にしていることがわかった。
見ていると、それもそのはず、と納得できる。
ユーリたちは強すぎる。
他の騎士たちが、訓練通りの戦い方をするのに対して、ユーリたちの隊の戦い方はハチャメチャな気もするが、度肝を抜く攻撃と、見事なチームワークで、あっという間に敵は三分の一ほどになった。
あたしが、興奮して歓声を上げると、ユーリがあたしに気づいて目を丸くした。
何かいいたげに口をあけるがあたしには聞こえない。
ユーリが、こちらに気を取られている間に、すぐ後ろから敵がユーリ目掛けて矢を放った。
思わず目を伏せたくなる。
いくら先がまるいといっても、こんなに至近距離では、硬いうろこを持つ竜ならともかく、人に当たれば怪我をするのは確実だ。
しかし、ユーリは後ろに目が付いているかのようにヒョイとかわして、振り向きざまに矢を右手でキャッチした。
こちらも到底人間わざではない。
ユーリはつかんだ矢をそのまま美しい動線にのせて弓につがい、放った主に送り返した。
矢はみごと敵騎の左翼に命中し、乗り手もろとも海につっこんだ。
更新日:2013-08-19 21:16:12