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「あとで、ユーリがバルコニーまで迎えに来てくれることになってるの。リュークが来てもびっくりしないでね。乗せてもらう約束したんだ」

 あたしの言葉を聞いて、クレアの笑顔がひきつった。
「竜……にお乗りに……?」

「そ。小さいころから憧れてたの」

 クレアは、あたしに上着を着せながら怪訝そうな顔をする。
「恐ろしくないんですか?」

「なんで?美しい生き物じゃない」

「だって肉食ですよ?食べられちゃうかも知れませんよ」

 本気で青い顔をしているクレアの顔を見て、あたしは思わず噴き出した。

「そんなこと言ってたら騎士はどうなっちゃうのよ」

「トゥレニは別ですよ。竜使いの一族なんですから」

「クレアだってトゥレニ族なんでしょ?」

「私は竜使いじゃありませんし、触ったこともありませんもの」

「そんなこと言ってると、アッシュと仲良くなれないよー?」

 あたしがからかうと、クレアが真っ赤になった。あたしは笑いながら部屋を後にした。



 港までは、大臣の馬車で見送った。
 城の馬車ほど大きくはなかったが、四人で乗ってもさほど狭さは感じない。やはり、大きな窓と開放できる天井のおかげだ。

 あたしは、開いた天井から一生懸命竜の姿を探したが、見つけることは出来なかった。
 
 クリスとアンディとの名残を惜しんで見送るときも、やはり竜の姿を探した。恩人たちに対して薄情だなあと思いつつも、竜に乗る約束にうきうきしないではいられない。

 でも、結局港ではユーリたちを見つけることはできなかった。


 城に帰って、急いで部屋に戻ると
「いらしてますよ」
とクレアがあたしにウインクした。

「中でお待ちいただこうと思ったのですが、どうしてもバルコニーでお待ちになるとのことだったので」

 バルコニーのガラス戸に、リュークの美しい青銀の翼が見える。
 とうとうあたしは竜に乗る時が来たのだ。

「ありがと」といった時には走り出していた。

 バルコニーへの扉を開けると美しい金の髪に陽の光を絡ませて、ユーリがにっこり笑った。

「おはようございます王女殿下」

「おはようユーリ!」
 ユーリに飛びついてから、リュークにも抱きついてキスする。

「おはよう、リューク、嬉しい!どうしよう、あたし大興奮だわ。よろしくね」

 ユーリがおかしそうにくすくす笑う。

「だって、初めてなんだもん。小さい時からの夢だったのよ」

「僕らも人を乗せるのは初めてなんだ。竜は基本的に乗り手にしか触らせないからね」

「えっ、そうなの? 大丈夫かな、乗せてくれるかな?」

「きみは特別みたいだから」

 ユーリが先にリュークに飛び乗り、あたしに手を差し出した。

「お手をどうぞ」

「王女様扱いしちゃだめだったら」
 彼の手を取りながらリュークによじのぼる。

「王女様扱いじゃなくて女の子扱いだよ」

 ユーリが後ろを向いて、鞍についている命綱のようなものをあたしに結び付けた。

「お気をつけて、御怪我をなさらないでくださいね」
 バルコニーの扉からクレアが顔をひきつらせて覗いている。

「そんな顔しないでよ、大丈夫だから」
 手をひらひらと振って見せると、ユーリもクレアに笑顔を向けた。

「ちゃんとお守り致します、サラ、しっかりつかまって」

 あたしがユーリの腰に手を回すと、リュークは翼を広げ、バルコニーの手すりから足を離した。

 斜めになりながら下に落ちていく感覚に驚いて思わず悲鳴をあげ、ユーリにしがみつく。
 地面にぶつかるすれすれで、向きが変わり、今度はぐいぐいと上昇し始める。
 中庭を一周する間に城の建物より高くなり、視界が突然広がった。

「怖い?」
 ユーリが振り向く。

 風がビュービューと頬をすりぬけ、空が真横に見える。目が回りそうな光景だ。

「怖い! でも、すごく楽しい!」

 リュークは、緑の丘を滑るように飛び、急上昇して森を越えた。

「すごい! 海が見える! 島も!」

 視界が高いので、遠くまでの景色がいっぺんに目に飛び込んでくる。
 すばらしい眺めだ。
 初めて海からカルサールを見たときに、まるで神々の島のようだと思ったが、今は自分が神になって天から見下ろしているような気分だ。

「夢みたい」

 しかし、景色を楽しむ時間はさほど長くはなく、馬と違ってあっという間に目的地に着いてしまった。

更新日:2018-02-26 18:25:19

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