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「ね、長老様のところへはいついくの?」

「そうだな、明日、彼らが帰るとき、また僕が城壁を開けに行くことになってるんだ。その後はどう? 馬を用意しておくよ」

「えっ、竜に乗せてくれないの? 門番(ゲートキーパー)の仕事も見たかったんだけどな……」

 あたしががっかりすると、ユーリがおかしそうに目を細めた。

「竜に乗りたいの? そうか、城壁の方はちょっと無理だけど、長老のところには竜で行く?」

「ほんと?! やった、ありがとう! 大好き」

 長年の夢が叶う嬉しさで、思わず彼に抱きついて頬にキスした。

 彼は受け止めてくれたけれど、またものすごくびっくりした顔をしたので、あわてて彼から離れる。

「ごめんなさい、もしかして、普通こういうことはしなかったりする?」

 アンディもクリスもキス魔だし、叔父や叔母とも挨拶代わりにしょっちゅうしていた。
 ウィルとも、ログノールの王様とも、もちろん父とも。出会った時も、嬉しい時も、何かもらった時もみんなキスだ。
 そのほかの人たちとはあまり関わっていなかったから、それが一般的な習慣だったのかどうかはわからないけど、もしかしたらカルサールの人にとってはおかしな習慣なのかもしれない。
 そういえばクレアもさっき固まったし。

「……いや、嬉しいけど……。まぁ、ない、ことも、ないかな……?」

「よかった。じゃあ、明日、バルコニーに迎えに来て、あそこよ」
 あたしが、自分の部屋を指差すと、ユーリがまた目を丸くする。

「ちょっと待って、僕は、おもてで待つよ」

「なんで?それじゃ来てるかどうかわからないじゃない、バルコニーまで来てよ」

「いや、さすがに、王女様の部屋に直接迎えに行くのは……まずいんじゃないかな」

「そうなの? じゃあここは? 飛び下りれば近いし」

「飛び下りるのも、ちょっと」

「もうっ、カルサールって、そんなに規則がたくさんあったの?」

「いや、規則じゃなくて」

「じゃあ、バルコニーで問題ないでしょ。見つからないわよ、こっち側はあんまり人通らないみたいだし。部屋もクレアしかいないもん。見つかっても『王女様に言われました』っていえばいいじゃない」

「サラ……」

「はい、もう決まり」

「サラ」

「だめ、バルコニー」

 ぶーっっ――――ユーリがまた笑い始めた。

――今度は、なんで? あたしってそんなに変なの?
 だんだん顔が熱くなってきた。
 この人には、笑われてばっかりだ。

「ご、ごめん……ひとに押し切られたのって初めてで……」

「あたし、強引すぎる?」

「いや、なかなか気持ちいいもんだね、楽しいよ」

「来てくれる?」

「バルコニーね、かしこまりました王女殿下」
 彼が、あたしの足元に跪(ひざまず)いて、手にキスをする。

「もうっ」と彼の腕を小突くと、誰かがあたしを呼ぶ声が聞こえた。

「サラ様ー」――クレアだ。

「ここ、ここ。中庭」

 クレアがバルコニーから顔を出す。
「まあ、サラ様、いつのまに下へ? あの、御手持ちでいらしたカバンも、荷ほどきしてしまってよろしいですか?」

「ごめん、今行くわ、じゃあねユーリ」

「また明日」

 ユーリに手を振って、もと来た道を戻ろうと、窓枠に足をかけ、二階の屋根に飛び移ったところでクレアが悲鳴を上げた。

 そしてユーリは、また爆笑し始めた。

更新日:2013-08-19 10:31:11

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