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入学

第1話「入学」

都立十桜(とおおう)高校入学式は、正直退屈だった。
始めのうちは、緊張もあった。
流石に新た学校で厳かな式となれば当然だった。
しかし、次第に飽きる。
校長先生の話だったり、PTA会長さんの話だったり、在校生さんの話だったり。
やることは、中学も高校も同じだ。

入学式のあとは、そのまま自分のクラスに行ってホームルームだ。
ここで、初めてクラスメイトや担任の先生と顔を合わせることになる。
張り出された紙を見て、確かに確認する。

『3組 30番 松井珠理奈』

自分のクラスは3組だ。
1年生のクラスは最上階の6階で遠い。
珠理奈自身はこれくらいなんともないが、息を切らして階段を進む生徒も多く見られた。

1度教室を示す札を確認し、「3組だな」と呟く。
ドアはすでに開いていた。
一歩足を踏み入れると、一瞬でクラスメイトの視線が刺さる。
ほとんどの人間が珠理奈の顔を見た後、足元を見る。
そして下から上へ何度か見直すのだ。

珠理奈を初めて見る人間がやることは大体同じだ。
それは、172センチという女子の中では長身である体を持っているから仕方がない。
男性も同じ。
自分とほぼ同じ高さの顔を見て、足元を見る。
薄っぺらいスニーカーを履いているのを確認すると、さらに驚いた様子で珠理奈の顔を見るのだ。

そのまま座席が書いてある黒板を確認し席に着く。
ただの番号順だ。
流石に入学初日は、クラスの雰囲気もピリピリとしている。
積極的に話しかけている者もいないわけではないが、特に珠理奈に話しかけてはこなかった。
そして珠理奈もわざわざ話しかけるようなことはしなかった。

担任の先生が入ってきて、いよいよ全員が席に着く。
パッと見た感じでは、珠理奈より背が高い者はいないように見えた。担任も含め。
先生は、入学式でも言われたようなことをまた話している。
そして「初仕事」と言わんばかりに、出席を取りはじめる。
お決まりのパターンだろう。

出席番号順に名前が呼ばれていくが、名前と顔は後で自然に一致していくものだと割り切って、覚えようとはしなかった。
段々と自分の番号が近づいてくると、返事を意識する。
はい、と言うだけだが、ミスは許されない。
声が小さすぎると「暗いやつだ」と思われる。珠理奈は別に暗い人間ではないし、地味な部類に入りたいとも思っていない。
かといって張り切りすぎて声が裏返ってもダメだ。
明るく元気に爽やかに歯切れよく、はい、だ。
そしてやってくる。自分の番。

「松井」

更新日:2012-01-17 04:08:57

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