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3章 - Before NOON

 クロスと零次が逃げるように家を去った後、ザードは後を追おうとして足を止める。
 家の周りに人の気配がある。まだ何かしてくる様子はないが――……ザードはクロス達の去った方へ視線をやりため息をついた。
「なーんか、めんどうなことになりそうやな」
 ぼそりと呟いてから半眼で周りを見回して家へと戻る。広間に入ると同時にポーラが駆け寄ってくる。
「ザード? 何があったの?」
 どうやらポーラもただならぬ気配に気づいているらしい。その表情にいつものやわらかな笑みはなく、真剣な瞳でザードを見つめる。
 ポーラの後ろに視線を走らせるとフォルテやカーメルの姿も見て取れた。
 どこから話すか……。ザードはあごに手を当てる。

 ――クロスに伴侶が出来たという話が舞い込んできた時、一番喜んだのはもちろんポーラだった。
 息子にその嫁はたくさんいるがやはり末っ子。その嫁ともなればまだ若くて可愛いに違いない。
 クロスは伴侶を選ぶのに長い月日がかかるだろうとも思っていただけに半年も経たないうちに伴侶を見つけたことが予想外に嬉しかったのだ。
 次に顔をほころばせたのがカーメル。次がザード。フォルテは相変わらず相槌をしただけだったが、クロスが帰ってくるのはいつか、とポーラにいくども聞いていたのを知っている。
 クロスは他の兄弟とは父親が違う。全王に母が見初められて出来た子供だった。
 その頃はまだ父も生きていたが王の誘いを拒むことが出来るものはこの狭間にはいない。
 王が子を望めばその相手は必ず身篭る。そうして今から16年前に生まれたのがクロス。
 ドラキュラの証とも言える赤い瞳と漆黒の髪。優れた身体能力、知力。直属の眷属のみが持つという特殊能力。
 すべてが他の眷属よりも頭一つ秀でている。
 クロスはジルハード家に快く迎えられた。
 家族からも愛され、そして当然のように――兄弟のおもちゃとなった。
 クロスが眷属ということは幼いながらに皆わかっていたが、それよりも好奇心が大きかった。
 今はまったく感情を見せないあのクロスも、小さい頃は本当に感情が豊かだった。
 頬をつつけばマシュマロのようで、つつきすぎて椅子から落としたこともあった。
 他の兄弟と結託してひたすらクロスにかまって遊んでいた。
 屋根裏に一人にして幽霊の話を聞かせて泣かせたり、クロスが好きだという女の子をつれてきて反応を楽しんだり、間違った知識を教えては影で笑ったりしていた。
 大抵作戦を考えるのがフォルテで行動するのは他三人。一番上の姉はもっぱらクロスの慰め役に回った。
 いじめているつもりはなかったが、今思い返すとひどいことをしたもんだと思う。
 よく怒られもしたが全然懲りなかった。それぐらいに新しい弟は新鮮でかわいくて構わずにいられなかった。
 けれど流石に苛めすぎたのか歳が10を過ぎたあたりから、徐々に抵抗を見せるようになったのだ。
 何をしても反応が薄くなる。かえってムキになってからかってみるも、更にクロスは感情を押さえるようになった。
 驚いたり泣いたりするから遊ばれるということに気づいたのだろう。
 今じゃすっかり冷静沈着。顔色の変わるところなんてここ二年ぐらい見たことがない。
(まったく本当につまらん)
 だから伴侶を見つけたという朗報を聞いたときは喜んだのだ。そう聞いて仕事を休んで火界に渡った。
 姿を見つけて後を追ってみれば会っているのはどうにも男。
 何を考えている? と思った。
 三日に一度、同い年ぐらいの男の部屋に入っていく。
 まさか。ありえない。
 あのクロスが男を伴侶に選ぶ?
 ありえない。
 ならあの男はなんだ?
 クロスは窓から出入りしている。己の正体を明かしていないなら玄関から入るのが普通だろう。
 いくらなんでも唐突に窓から入ってくることを不審に思わない人間はいない。
 クロスは他人に気軽に気を許す性格じゃない。ドラキュラだということを普通の人間に話すだろうか。
 親しい友人……とも考えられる。
 けれどもこの一週間。クロスが他の人間と親しくしている姿はない。
 ならば伴侶はどこだ、ということになる。
 あれが伴侶ならば、一応は説明はつくのだが……。
「ありえん」
 ザードはクロスの入っていった部屋をひたと見つめる。自嘲の笑いが漏れた。

更新日:2009-01-14 23:04:16