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2章 - Before DAWN

 ~prologue~



 この世には科学で説明できない現象、生態が解き明かされていない生物・植物が数多く存在する。おとぎ話、神話、伝承……今の世の中で”物語の中の世界”とされしまった”現実”は数多く存在する。
 それに触れることのないまま、気づかないままで人生を終わることがほとんどだろう。
 ――けれども気づいてしまえば世界は一変する。

 閑静な住宅街の屋根に影があった。道路には人もまばらに歩いているのが見えるが上を見上げてその影に気づくものはいない。冬の寒い日が続く中、久しぶりに晴れ間がさした日だった。
 影は鳥の形ではない、猫でもない、明らかに人の形をしていた。
 けれどもその背中には一対の翼のようなものが生えている。まるで数々の神話にでてくる天使のよう対を成したその翼。だが翼は深遠の闇のように黒く染まっていた。
 影の中に光る瞳は一つの家を凝視していた。恨みを込めるかのようなその視線は一つの部屋から揺らぐことがない。
 笑った気配がする。だが微笑みなどというものではなく、小ばか嘲笑うように影は笑う。
 それでも瞳は真剣なままだ。
 小さな子供が屋根を見上げた。隣にいた母親に声をかけるより早く影は跡形もなく消えた。


200X年12月15日(水)

「何それ! どういうこと?!」
 零次は静と共に学校から駅までの道のりを一緒に帰る。
「そんな……大きな声だすことないだろ」
 予想しなかった反応に零次は目を見開いて瞬く。大したことは言っていない。
「まだ”してない”?」
 零次は静の剣幕に押されながらも頷く。
「なにそれ。どういうこと。信じられない」
 早口でまくし立てる静に零次は言い返す言葉が見つからない。
「あのね? ドラキュラはSEXすることで精力を補うの。それぐらいわかってるでしょ? セルロだってね、あまり積極的なタイプじゃなかったけどそれでも最低週に1度はしてたんだよ?」
「うわ。そんなに?」
 予想外の事実に零次が素直に驚くと、静の手が零次の首へと伸びる。軽く閉めるように手を添えて、低く囁いた。
「こんなの少ない方なの」
 静の迫力に押されながら、零次は無理矢理笑顔を作って静の手を押さえる。
「いや、でもキスはしてるぞ?」
「郡山君ってバカ?」
 流石にそれは頭にきて零次は唇を尖らせて言い返す。
「あのなぁ! 俺とクロスは静んとこと違うんだよ」
「バカ」
 静の返す言葉はにべもない。
「クロスさんが望んでないわけじゃないんでしょ?」
「う……」
 確かに最近キスしている時にもやたらと体を触ってくる。手触りがいいだとか言ってたことがあるから、それだろうと思っていたのだけど。
 血を吸い終えるとキスに変わる。キス自体はまったく嫌じゃない。
 クロスの手が腰などに触れることも……嫌ではない。
 最近はどうにも体が反応してしまって、それでクロスが含み笑うのだ。
 そこで大抵――俺が怒鳴っておしまい。
 歩き出した静の後を追いながらぼやく。
「……今日はクロスの来る日だから聞いてみる」
 実際そんなことを聞いてみるつもりはまったくなかった。そういえば静の気が収まるかと思ったのだ。
 だが静の歩みが不自然に止まる。
「……今日”は”?」
「へ?」
 静の背中からは怒りのオーラが見て取れる。零次に焦りが走った。
 一体何が静をそうも怒らせるというのか。
「なん……」
「まさか……まだ3日ごとに会ってるとか言わないよね?」
「そうだけど。それがどうか……」
 零次の言葉はそこで途切れた。静の表情を見て言えなくなったのだ。
「大バカ!!!!」
 静の声が冬の寒空に響いた。

更新日:2009-01-15 00:21:05