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二 三島麻衣
三島さんを家まで送り届けた日から二日が経った。
あれから俺はバイトが入っておらず、いまだに三島さんと会ってはいなかった。
体調は大丈夫なのだろうか? もう働いているのだろうか? また無茶をしているのではないだろうか?
いくつもの不安が頭をよぎっては消えていく。
それに……。
俺はいまだに先日のことが気になっていた。
暗い部屋にぽつんとベッドに座っていた少女。三島さんをそっくり写したかのように、彼女によく似た少女。三島さんは彼女のことを、麻衣と呼んでいた。
彼女はやはり、三島さんの妹なのだろうか? だとしたら、どうしてあんな暗い部屋にいたのだろう? そして俺を見たときの、あの怯え様。あれは一体……。
「お~い、聞こえてるか~?」
「……えっ?」
腕を揺すられ、俺は我へと帰った。俺がいるのは大学の食堂だった。向かいの席では雄一郎が呆れた顔をしながら、俺のきつねうどんを指差している。
「麺、伸びてるぞ?」
「あっ!?」
慌ててどんぶり鉢を見るが、既にスープは最初の半分ぐらいにまで減っていた。ミックスフライのA定食を頼んでいた雄一郎は既に食べ終えているらしく、皿の中身は空っぽになっていた。
「はぁ……」
肩を落としながら、俺はうどんをすする。
「おいおい、今日はやけにぼーっとしてるな。また何かあったのか?」
「そ、そんなに俺ってぼーっとしてたか?」
「ああ、昨日今日に至っては心ここにあらずって感じだな。また何か厄介なことにでも首を突っ込んでるんじゃないのか?」
「厄介なことっていうか……」
俺は言葉を詰まらせる。
三島さんの家での出来事は、他人に言ってはいけない気がする。
言葉の見つからない俺に、雄一郎はため息と共に手を振った。
「もういい。大体分かった。どうせ、バイトの三島って子のことで悩んでたんだろ?」
「えっ、あ、その……」
しどろもどろになる俺に、雄一郎は難しい顔をする。
「分かんねぇんだよな。あんな無愛想な子のどこがいいわけ? あんな子がお前の好みだったのか?」
話の途中で何かを思い出したのか、雄一郎の表情に苛立ちが混じる。
「ち、違うって! 三島さんは大事な友達だって!」
「友達ねぇ……でも、あんな子と友達になって楽しいか?」
「な、何なんだよ? やけに絡んでくるじゃないか。三島さんと何かあったのか?」
「んあ? ああ、少しな」
雄一郎は、以前俺が雄一郎をバイト先に連れて行った後、三島さんと会ったことを教えてくれた。
「まぁ、お前が執心するような子だから、どんな子なのか見てみたかったんだよ」
「それでお前から見て、三島さんはどうだったんだよ?」
「最悪だな、ありゃ」
雄一郎ははっきりと言い切った。
「大体、可愛げがないんだよ。女は愛嬌って昔から言うだろ? なのに、私は自分一人で生きていけますって顔しやがってさ。ああいう子と一緒にいても、面白くなんかないね」
(一人で、か……)
雄一郎の言うように、三島さんは他人を拒絶している。だけど、俺はそんな彼女のことが気になってしまったんだ。友達になりたいと思ってしまった。
「面白いとか、面白くないとか、そんなもので友達って作るものじゃないと思う」
気がつくと、俺はそんなことを口にしていた。
「じゃあ、お前にとって友達って何なんだよ?」
「……何だろう?」
以前、三島さんにも同じことを聞かれた。だけど、まだ俺はそれに対する明確な答えを持ってはいない。
でも友達は作るものではなくて、いつしかなっているものだとは思う。傍にいるのが当たり前で、その人が困っていたら力になってあげたいと思える。そんなものなんじゃないだろうか?
「はぁ……もういいよ。でもな、悪いことは言わないから、あの子は止めとけよ」
「な、何でそんなこと言われなきゃいけないんだよ!」
「あの子はお前を不幸にするぜ?」
「ふ、不幸……?」
「何ていうのか、厄介なもんを抱えてる気がするんだよな。それに巻き込まれたら、もう後には引き返せない気がする」
「厄介なこと……」
部屋にいた少女のことが思い出される。
あの子と三島さんの関係は何なんだろうか?
どうしてあの子はあんなに怯えたのか。
結局行きつく先はその疑問になってしまう。
(三島さんのことを知るためには、まずあの子のことを知らないといけないってことだよなぁ……)
でも三島さんが素直に教えてくれるだろうか?
(絶対、無理だよな~)
俺はため息を吐きながら、すっかり冷めてしまったうどんをすするのだった。
あれから俺はバイトが入っておらず、いまだに三島さんと会ってはいなかった。
体調は大丈夫なのだろうか? もう働いているのだろうか? また無茶をしているのではないだろうか?
いくつもの不安が頭をよぎっては消えていく。
それに……。
俺はいまだに先日のことが気になっていた。
暗い部屋にぽつんとベッドに座っていた少女。三島さんをそっくり写したかのように、彼女によく似た少女。三島さんは彼女のことを、麻衣と呼んでいた。
彼女はやはり、三島さんの妹なのだろうか? だとしたら、どうしてあんな暗い部屋にいたのだろう? そして俺を見たときの、あの怯え様。あれは一体……。
「お~い、聞こえてるか~?」
「……えっ?」
腕を揺すられ、俺は我へと帰った。俺がいるのは大学の食堂だった。向かいの席では雄一郎が呆れた顔をしながら、俺のきつねうどんを指差している。
「麺、伸びてるぞ?」
「あっ!?」
慌ててどんぶり鉢を見るが、既にスープは最初の半分ぐらいにまで減っていた。ミックスフライのA定食を頼んでいた雄一郎は既に食べ終えているらしく、皿の中身は空っぽになっていた。
「はぁ……」
肩を落としながら、俺はうどんをすする。
「おいおい、今日はやけにぼーっとしてるな。また何かあったのか?」
「そ、そんなに俺ってぼーっとしてたか?」
「ああ、昨日今日に至っては心ここにあらずって感じだな。また何か厄介なことにでも首を突っ込んでるんじゃないのか?」
「厄介なことっていうか……」
俺は言葉を詰まらせる。
三島さんの家での出来事は、他人に言ってはいけない気がする。
言葉の見つからない俺に、雄一郎はため息と共に手を振った。
「もういい。大体分かった。どうせ、バイトの三島って子のことで悩んでたんだろ?」
「えっ、あ、その……」
しどろもどろになる俺に、雄一郎は難しい顔をする。
「分かんねぇんだよな。あんな無愛想な子のどこがいいわけ? あんな子がお前の好みだったのか?」
話の途中で何かを思い出したのか、雄一郎の表情に苛立ちが混じる。
「ち、違うって! 三島さんは大事な友達だって!」
「友達ねぇ……でも、あんな子と友達になって楽しいか?」
「な、何なんだよ? やけに絡んでくるじゃないか。三島さんと何かあったのか?」
「んあ? ああ、少しな」
雄一郎は、以前俺が雄一郎をバイト先に連れて行った後、三島さんと会ったことを教えてくれた。
「まぁ、お前が執心するような子だから、どんな子なのか見てみたかったんだよ」
「それでお前から見て、三島さんはどうだったんだよ?」
「最悪だな、ありゃ」
雄一郎ははっきりと言い切った。
「大体、可愛げがないんだよ。女は愛嬌って昔から言うだろ? なのに、私は自分一人で生きていけますって顔しやがってさ。ああいう子と一緒にいても、面白くなんかないね」
(一人で、か……)
雄一郎の言うように、三島さんは他人を拒絶している。だけど、俺はそんな彼女のことが気になってしまったんだ。友達になりたいと思ってしまった。
「面白いとか、面白くないとか、そんなもので友達って作るものじゃないと思う」
気がつくと、俺はそんなことを口にしていた。
「じゃあ、お前にとって友達って何なんだよ?」
「……何だろう?」
以前、三島さんにも同じことを聞かれた。だけど、まだ俺はそれに対する明確な答えを持ってはいない。
でも友達は作るものではなくて、いつしかなっているものだとは思う。傍にいるのが当たり前で、その人が困っていたら力になってあげたいと思える。そんなものなんじゃないだろうか?
「はぁ……もういいよ。でもな、悪いことは言わないから、あの子は止めとけよ」
「な、何でそんなこと言われなきゃいけないんだよ!」
「あの子はお前を不幸にするぜ?」
「ふ、不幸……?」
「何ていうのか、厄介なもんを抱えてる気がするんだよな。それに巻き込まれたら、もう後には引き返せない気がする」
「厄介なこと……」
部屋にいた少女のことが思い出される。
あの子と三島さんの関係は何なんだろうか?
どうしてあの子はあんなに怯えたのか。
結局行きつく先はその疑問になってしまう。
(三島さんのことを知るためには、まずあの子のことを知らないといけないってことだよなぁ……)
でも三島さんが素直に教えてくれるだろうか?
(絶対、無理だよな~)
俺はため息を吐きながら、すっかり冷めてしまったうどんをすするのだった。
更新日:2012-01-19 12:39:24