• 2 / 52 ページ

一 三島優衣

「私たち、別れましょう」

「…………は?」

 夜の公園。突然の電話で呼び出され、それから二時間も遅刻して現れた彼女は、開口一番にそう言った。

「ちょ、ちょっと待てよ! 何でいきなり!」

 当然、こちらもそんな一言で納得出来るはずがない。混乱する頭を必死に落ち着かせ、彼女へ理由を問いただす。
 俺は別に彼女に対して、やましいことなんて一つもしていない。浮気はおろか、彼女以外の異性との交遊関係すら皆無だった。
 それなのにどうして!?
 必死に食らいつこうとする俺を斬り捨てるように、彼女は薄く笑った。

「だって貴方、固いんだもの。一緒にいても面白くないのよ。退屈なの、分かる?」

「か、固い……?」

 呆然と呟く俺を前に、彼女は鳴り出した携帯をカバンから出して、電話に出た。

「あっ、健吾? 今? 今、暇だよ? えっ、行く行く! じゃあ、駅前でね♪」

 電話に出る彼女は今まで深刻な話をしていたとも思えないほど軽快な口調だった。通話を終えると、携帯をカバンにしまいながら、彼女は俺に背を向けた。

「まぁ、そういうわけだから、私たちはもう終わり。それじゃあね」

 ひらひらと手を振り、彼女は去っていった。後に残されたのは、何が起きたのかも理解出来ずに固まっている野郎一人。
 こうして俺の恋は無残にも散ったのだった。

更新日:2011-12-25 11:50:17

  • Twitter
  • LINE
  • Facebook