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悲観的な出会い

「……ふっ!……ふっ!……ふあー」
 腕全体に広がる疲労感。千春は汗まみれの身体で、床の上に倒れこんだ。
「………疲れた」
 床に寝転びながらの第一声がそれだった。腕の疲労感は未だに無くならず、起き上がることすら困難だ。
 今の彼は座礁した鯨のように、まるで身動きが取れないでいる。
 千春は汗で床が濡れるのも気にせず、部屋の隅にあるベッドへとコロコロと転がった。
 ゴンッ!と足が傍のテーブルにぶつかった。悶えるような痛みに耐えながら、千春は顔をあげた。
 ベッドの上に無造作に置かれている目覚まし時計。その針が6時の位置を指していた。あと2時間後には学校が始まる。
 千春はそれを見て、ゆっくりと溜め息をつく。
 今日は始業式だ。千春は高校二年生の最初の朝をこんな汗まみれで迎えることに、若干の憤りを感じていた。
 何故、トレーニングが朝の恒例となってしまったのか。しかし、これをやっておかないと色々なことで不安なのだ。
 無論、不安なわけは千春の華奢な身体を見れば理解出来る。
 試しに二の腕を詰まんでみたが、筋肉とは無縁の骨と皮だけの腕。毎日これだけの数をこなしているのに、まったく効果が現れない。
 自分の肉体は既に第二次成長期を終えてしまっているのだろうか?
 ダルンダルンの二の腕を再度詰まみながら、千春は認めたくない現実から目を逸らした。
 いずれつく。そう、これを毎日やっていたら確実に筋肉はつくはずだ。
 そう自己暗示をかけた千春は、とりあえず汗を流そうと、自分の部屋を後にした。



―――――――――――



 この家は築30年のボロアパートだ。
 千春はここに去年から一人で住んでいる。両親は仕事の関係上、海外に今は行っている。
 結構裕福だとは思うのだが、何故か息子の千春にはこんな雨漏りしまくりのボロアパートに住まわせた。
 ケチなのだ。
 千春の親は金持ちのくせに金を使いたがらない。それは病的なものであり。これは以前、家族三人でディズニーランドに行った時の話なのだが、当時5歳だった千春がアトラクションに乗りたいとせがんだら、「お金がかかるから見るだけだ」と、結局ひとつもアトラクションに乗らず、神崎一家はディズニーランドを後にした。
 今となっては非常におかしいな話だ。何も乗らないなら、なんでディズニーランドなんか連れってたんだよ?こうツッコンでやりたい。しかし、どうせ金がなんたらと言って相手にされないのだろう。
 それまでに、千春の両親の金に対する執着心は強い。
 その執着心は少なからず千春にも遺伝しており、今の彼は出来るだけ節約して暮らしている。

更新日:2011-12-23 20:59:09

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