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「千春ちゃんって呼ぶな!」
「あっ…ゴメンね千春ちゃーん!
 千春の激を軽くスルー。ビキリと千春の額に浮かぶ血管。だが、彼女はまったく気にすることなく、千春の横に腰を下ろした。
「夏女。お前も俺のチームに入ってくれるのか!」
 そんな千春をよそに、テンションアゲアゲの仁。
「もちろんだぜ相棒!私達三人は一心同体だよ!ねっ?千春ちゃん!」
 ガッチリと握手する仁と夏女。そんな二人に千春はため息をついて言う。
「だからちゃん付けすんなって……」
 蒼宮夏女。字の通り夏のような陽気を思わせる暑い女である。
 夏女は高一の時から同じクラスで、その時仲良くなった。まあ仲良くなったと言っても、それは夏女の一方的な解釈であって、千春はいつも自分のことを女扱いする女子としか認識していない。
 だが、夏女は千春をいたく気に入っている様子なので、無理矢理仲良くさせられたという表現が合っているかもしれないが、
「いや!でもさっきは驚いたよ。まさか千春ちゃんがあの勇と正面切って張り合ってるんだから。私は思わず途中だったプラモ作りの手を止めちゃったぐらいだったぜ!」
 ふっふーんとその場でクルクルと回り始めた夏女。
「いや、授業中に何してんだよ。だいたいお前の席は教卓の目の前じゃなかったけ?」
「そだよ?でも英子ちゃん、凄いねぇ!って言ってくれたのだ。だから私。英子ちゃんの話も聞かずに没頭しちゃったのさ!」
「………あの先生は何やってんだよ」
 このクラスの異常性に、改めて千春は頭を抱えた。和やかだった教室に、意外性ナンバーワンの夏女が来たことで、何やら妙な空気になっている。
 夏女は訳のわからないダンスを踊りながら、周りの奴らに「球技大会参加する人この腹とーまれ!」などと言って教室中を踊り回っていた。
 そんな夏女を見ながら、千春は隣のメガネ生徒会長をジト目で見遣る。
「なあ仁。あいつをチームに誘って本当に大丈夫なのか?」
 正直不安なのだ。あの地球外生命体とチームを組むのは。
 そんな千春の物言いに、仁は白い歯を見せると、
「大丈夫だ。あいつには恐るべき野生の本能が宿されているからな」
 仁は断言した。千春の心情とは裏腹に仁には夏女チームに入れることを強く推している。
「そうかい。確かにあいつには何かしらの本能があるんだろうな」
 教室の隅を見ると、弁当食べている生徒に民謡武芸のようなクネクネした動きで近づいている夏女がいた。
「わかった。とりあえず夏女を呼んでこい、ちゃんとした話はそれからだ」
「わかった。………夏女ぁああ!俺も混ぜてくれぇえ!」
 民謡武芸さながらのクネクネ踊りで向かっていく仁。
 真昼間の教室。突如出現したクネクネ動く何かを見て、千春は机に突っ伏した。



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更新日:2011-12-26 19:33:14

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