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第二章

 車の内部は、沈黙に支配されていた。
 だが、少年たちが、特に咲耶がずっと静かだったわけではない。
 最初に同行を求められた時に、まず反発したのは黒髪の少年だった。
「任意同行か。断ることはできるはずだよな」
 彼は、西園寺の就職先を知らないと言っていた。ましてや、度々自分を殺すために現れるこの男が刑事だったという時点で酷く動揺しても不思議はないのだが、咲耶が絶句していたのはほんの数秒だった。
 だが、不機嫌な表情のまま、西園寺はそれに答えた。
「いや。普通の捜査方法やったら、確かにそうやけどな。『不可知犯罪捜査官』の辞令を受け取った以上、この件に関してはワシに一切の制限はかからへん。今は同行をお願いしとるけど、断られたら力ずくで連行するまでや」
「何だよ、それ」
 苛立った声で、返す。
「……あの」
 しかし睨みあう二人は、横からかけられた声に顔を向けた。
「杉野が亡くなった件では、僕も今までに何度か事情はお話しているんですが。二ヶ月も前ですし、今更何を……?」
「ワシが辞令を受けたんは、つい三時間前や。今更、やない。二ヶ月の間、警察が何も調べてない訳でもない。杉野さんの特殊な技能も、それによる副収入の存在も、君に何をさせてたんかも、全部」
 暗に示してくる言葉に、紫月の顔が強ばった。
 杉野に、何をさせられていたのか。
 あまり思い出したい記憶ではないし、知られたい事実でもない。
 西園寺は、軽く後部座席の扉を開いた。
「乗りぃ。昼間っから、住んどるマンションの前でしたい話やないやろ」
「朝っぱらから住んでるマンション襲撃された俺の前で常識的なこと言うなよ」
 咲耶が毒づく。
 しかし、彼自身は是とも非とも返事をしない。
 あくまで、同行を求められているのは、紫月だからだ。
 断った場合、ここでどういう修羅場が起きるのかな、と僅かな興味が浮かぶ。
 まあ紫月もそこまで人が悪くはない。
「判りました」
 静かな返事に、咲耶が溜め息を零す。
「俺も一緒に行ってもいいか」
「咲耶?」
 僅かに驚いて、名前を呼んだ。
「お前を一人でこの変質者と行かせられるかよ」
「いや、君の心配するところはそこなのか?」
 呆れて返した言葉の終わりが、西園寺が車の屋根をどん、と叩いた音にかき消された。
「ええから二人ともさっさと乗れ。時間がないんや。早いとこ移動すんで」

 その車は、朝に西園寺が乗ってきたものとは違っていた。
 厳重に防御の呪が施されたそれに咲耶はあからさまに眉を寄せたが、無言で乗りこむ。自分で施した防御以外を信用しない彼だが、今それを言い立てる場合ではないと判っているのだろう。
 続いて紫月が車内に入る。西園寺が運転席の扉を閉めた瞬間、不吉な響きと共にロックと更に厳重な呪で封じられる。
「息苦しいな……」
 小さく咲耶が呟く。
「堪えてくれ。すまん」
 率直に西園寺が謝罪する。少しばかり意外で、咲耶はそれ以上文句はつけなかった。
「これからどこへ行くんですか?」
 落ちつかなげに、紫月が尋ねた。
「捜査零課の本部に向かう。ちょっと遠いけど、そこやったら多分安全やからな」
「……別に僕は暴れ出したりしないですよ」
 咲耶とは違うし。
 その言葉は続けなかったが、隣の相棒から胡乱な視線を向けられる。
「別に、坊ンを凶悪犯扱いしとる訳やない。……厄介なヤマなんや、ホンマに」
 一つ大きく溜め息をついて、西園寺はエンジンをかけた。

更新日:2011-12-14 22:00:50

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