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プロローグ

 朝食後、彼は何となく相棒の部屋に留まっていた。
 食器は既に使い魔が下げてしまっており、テーブルの上には数冊の参考書が載せられている。部屋の主は、一心にそれに視線を落としていた。
「お前、まだ大学に行くつもりなのか?」
 ふと漏れてしまった言葉は、露骨に不快な表情で睨みつけられた。流石に今のは失言だ。
「悪ぃ。それを否定するつもりなんじゃなかったんだ。ええと……」
「言い訳をしたいなら聞くだけは聞いてあげるよ」
 にっこりと笑って、そう言い渡される。苦笑して、片手を上げて軽く拝む。
「俺はさ、進学するってことに全然興味がなかったから。不思議なんだよ、単純に」
「不思議、ねぇ」
 それに対しては突っかかるでもなく、少年はちょっと考えこんだ。
「僕は、これも単純に言うと世界を知りたいんだよ。人類の文化が発生したのは、ざっと四千年前だ。その間に、どれほどの人間が生まれて、どれほどのものが形作られた? 何を考え、何を望んで生きてきていた? 知らないことは、幾らでもある。それを知ろうともせずに生きていくなんて、我慢できないんだ」
「世界か……。大きく出たな」
 感心して言うと、相棒は小首を傾げた。これは、皮肉だと受け取られずに済んだらしい。
「そうか?」
「そうだよ。……俺には、この日本だって大きすぎたっていうのに」

更新日:2011-12-11 20:12:33

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