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ちゃんとキスして・・・

「チャン・ナヨンが、いなくなったって、どういうことだ?」
「それが、ジュノさんと会ってから、急にいなくなったらしくて
彼女の事務所が、凄く感情的になってます。どういう状況だったのかが
知りたいと、言って来ました。どうしますか、ジュノさん?」
「それは・・・事務所としては、心配だろうな。
だけど・・・あの時、オレは分かってくれたと思ってたんだ・・・」
ここで言葉を切る。そして、大きな溜息を吐いた。

「そうですよね、一体どういうつもりなのか、さっぱり分かりません。
取りあえず・・・事務所に来てもらえますか?」
「そっか、分かった。あまり寝てないんで、ちょっと、しんどいけど、仕方ないな
迎えに来てくれるか?ああ、じゃあ頼むよ」

ジュノが振り返ると、心配そうな顔をした、美秋が立っていた。
そんな美秋を見たジュノは、思わず、にこっと笑うと、彼女に向かって
両手を差し出した。
すぐには動かない、美秋を見て、更に笑顔が広がる。

「どうした?おいで・・・」
美秋の心に、様々な感情が渦巻く。
(笑いなさい、さあ・・・彼の胸に飛び込みなさい)
しかし、出来なかった。

「あ、ジュノさん、私、今日ちょっと、早く店に行かなくちゃならないの・・
ごめんなさい」

そう言うと、クルっと向こうをむき、キッチンの方に行ってしまった。
ジュノは、慌てて後を追うと、美秋の左手を掴み、自分の方に向かせる。

「ちゃんと説明するから、ちゃんと聞いてくれ」
美秋は、ジュノの真剣な表情をじっと見つめると、微かに頷いた。

共演していたチャン・ナヨンから、告白されたこと、でも、きちんと断ったこと
その彼女の行方が、今、分からなくなっていることを、ジュノは簡潔に話した。
淡々と喋った方が、良いと判断したからだ。

「うん、分かった・・・私、さっき、あなたの胸に飛び込んだら、きっと
嫌なこと言っちゃいそうで、自分が怖かったの」
「・・・オマエは、いつも自分の気持ちを抑えすぎだ・・・
オレの前では、我慢するな」

ソファに座る、自分の横に、ちょこんと座る美秋が、いじらしくて
ジュノは、優しく、美秋を引き寄せた。
そして、彼女の髪の匂いを、思い切り嗅ぐ。
「また、バラのお風呂に入ろうな・・・」
「・・・・・」
ジュノは、返事がない美秋が、どんな表情をしているか、手に取るように
分かった。

「隅から隅まで、ゆっくり洗ってやるから・・・」
そのシーンを、想像したジュノの方が、顔がにやけてしまったので
軽く咳払いをした。
「なあ、ミアキ?」
「うん?」
「もう一回、しよっか・・・」
「何、言ってるのよ、ジュノさん!」

そう言って、立ち上がろうとしたので、美秋は、ジュノに腕を掴まれ
抱きしめられた。
「じゃあ、キスだけ・・・濃厚なのを・・・ネ?」
そう言って、段々と顔を、美秋に近付けた。
美秋は、観念したように、そっと目を閉じた。


その後、ジュノは事務所に、そして、美秋は店に向かった。

美秋が、いつものように店の鍵を開けていると、一人の青年が走り寄り
美秋を強引に抱きしめた。
「ちょ、ちょっと、何するんですか!」
「ごめんなさい、助けて欲しいんです・・・あ、来た!」
そう言って、また、美秋を抱きしめた。


更新日:2009-05-24 12:56:05

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