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最初のプロポーズ

「遅いな~」
ジュノは、美秋の家のリビングで、いつものソファに座り腕時計を見た。
実は、ライフワークにしているユニセフの仕事が早く終わったので
少しでも早く美秋に会いたいと、車を飛ばしてやってきたのだが
いつまでたっても美秋は帰ってこないのだ。
ふと、彼女がいつも横に座るソファに視線を移すと、一昨日のことを思い出し
ジュノは微笑んだ。
一昨日の夜、二人はここで愛し合ったのだ。
ジュノは、いつでもどんな場所でも、彼女と愛を交わしたかったが、まだまだ
それを美秋に求めるのは難しく、一昨日も、半ば強引に、このソファに
組み敷いた。
初めは恥ずかしがり、嫌がったが、最後はジュノに屈したのだ。
美秋の肌の感触を思い出しただけで、身体が熱くなったジュノは
「ミアキ・・・」
と、思わず声に出すと、そこで我に返った。
そして、ひとつ大きな溜息を吐くと、ガマン出来ずに携帯を取り出した。
送信メールの履歴に、美秋宛ての文字がずらっと並ぶ。
メールが大好きなジュノは、しょっちゅう美秋にメールを送るが、彼女から
返って来るのは、2~3回に1回の割なので、やっぱりオレの方が
惚れてるのかなぁと、思うと自然に笑顔になっていた。
発信ボタンを押すと、聴き慣れた美秋の声が流れた。
「ハイ、美秋です。ただ今電話に出ることが出来ません。
留守番電話にメッセージを残してください」
(何だ、留守電か・・・)
留守番電話も、最初は楽しくて、いろんな人の物真似をしたり、キスの
音だけを入れたり、どんなにキミを愛しているかなどを、延々留守電に
入れたこともあったが、最近、留守電だと、彼女の生の声が聴きたいときに
聴けないことに、がっかりすることが多くなっていた。

「ジュノです。仕事、まだ終わらないの?オレはもう、家に帰ってきてるんだよ。
早く帰っておいで・・・
あ、事故には充分に気を付けろよ」
録音を済ませると、ジュノは、「これで良し・・・」と呟いた。
「何か、腹減ったな~」
携帯をテーブルに置くと、ジュノは、キッチンへと向かった。


その頃、美秋が帰ろうとしていたところに、急に店に飛び込んで来たのが
チャン・ジフンだった。
「こんばんわ」
にこやかな笑顔で美秋に近付くと、「美秋ちゃん、お久しぶりです」
と、声を掛けた。
「あら、ジフンさん、どうも、ご無沙汰しています」
「もう帰るの?」
美秋がエプロンを外しているのを見て、ちょっと残念そうに尋ねた。
「あ、いえ、大丈夫ですよ、お花ですか?どんなアレンジになさいます?」
「う~~ん、実はコン・ソンフンさんのコンサートがあるので、楽屋に訪ねようと
思って」
「え、コン・ソンフンさんのコンサートですか?良いなぁ」
「そっか~、ヒョン(兄さん)とは、まだ一緒には、出歩けないですもんね」
「ええ、仕方ないですわ、彼が相手じゃ・・・でも、ジフンさんだって同じでしょ?
私みたいな思いをしている方が、いらっしゃるんじゃないですか?」
そう言いながらも、手は休むことなく、時々ちらっとジフンを見る。
「そうだなぁ、最近、愛だの恋だのって言うのに、とんとご無沙汰してますよ」
ジフンは、器用に動く美秋の手と、真剣な表情で花と向き合う、彼女の顔を
交互に見ていた。
「ホラ、僕らの仕事って、疑似恋愛はしょっちゅうでしょ?」
「え・・」
美秋の手が止まり、ジフンを見上げる。
「やっぱり・・・そう言う時は、共演した人を本気で好きになったり・・するんですか?」
(キレイな目だ・・・)
メイクもしていないのに、黒々とした長いまつげに覆われた黒目がちな目・・・
そして、瑞々しいピンク色の唇からこぼれる真っ白な歯、そして笑うと出来る
片えくぼが、とてもチャーミンングだった。
(不思議な女性だ・・・)
繊細な印象を受けるときもあれば、妹のようにからかってみたくなり、唇や胸を
意識してしまったりと、会うたびごとに違った魅力に、はっとするときがあった。
「ジフンさん?」
「あ、ごめんね」
ジフンは、美秋の質問を思い出した。
「人それぞれだからね・・・僕の場合はそうだと言うだけですよ」
ジフンの言い訳に、美秋はクスっと笑った。
「ジフンさんって、ホントに、良い人ですよね」
「あ、それは男性には、きついセリフですよ」
「え、そうなんですか?ごめんなさい」
今度はジフンが、クスっと笑う。
「あなたは、可愛い人だ、ヒョンが好きになったのが分かりますよ」
「わ~、誉めてくださったので、オマケしちゃいます」
ぽっと赤くなった美秋は、更に魅力的に見えた。



更新日:2009-02-12 00:43:07

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