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「……駄目だ。ホントにたかみな頭おかしくなってるよ」
しかし、高橋の思いは前田には届かない。
前田は後ろを向き、首を左右に振る。

「ホントにやばいのか? たかみなは」

そう言って、また一人高橋を覗き込むんでくる人がいた。
身長は高橋と同じくらい小柄で、小動物を思わせる綺麗な顔立ちだが、年齢は大分上に感じられた。
前田の横に立って、高橋に話しかけてくる。

「おーい、たかみなー? 落ち着けー」
たかみなという愛称を自然に使っている。
こっちはあなたの名前も知らないのに。

「たかみなー? 大丈夫かー?」
「あの、すいませんが……どなたですか?」
その質問を聞いたその人は、ポカンと口を開けていた。
「え? 私だよ?」
「ホントにすいません。わからないです……」

高橋はなんだか申し訳ない気持ちになっていた。
驚いたその女性は前田の肩を掴んで揺さぶる。

「ホントにダメだ! この大島が分からないだなんて」

大島と聞いて反応する。

「大島? 大島麻衣さん?」
「……たかみな記憶喪失だあああ!」

小動物の人は大声で叫びながら走り回りだした。

「たかみな……ホントに優子が分からないの?」
「大島優子さん……そんな人AKBにいたっけ?」
「私は分かるの?」
「あっちゃんは分かるに決まってんじゃん」

この状況をどうにかしてほしかった。
もはや悪夢。
さっさと覚めてほしかった。

じっと前田のことを見ていると、不意に高橋は何か違和感を感じた。
何とも説明しがたい違和感。

「あっちゃん……なんか感じ変わった?」
「え? 私?」

目の前にいるのは確かに自分の知る前田敦子だろう。
パッチリした目に特徴的な声。
間違うはずがない。
しかし、何かがおかしい。
自分の知っている前田敦子と何かが大きく違っている。
髪が伸びたから? メイクしてるから?
それとも違う、何か根本的な違いがある。

「うーん何だろ? 何かが変わったよね」
「私は別に何も変わってないよ」
「いや、何かがおかしいよ」
「おかしいのはたかみなの言動だって……」

高橋は完全に狂人扱いされていた。
何でも分かってくれると思っていた前田にすら相手にしてもらえない。

「てか、何か雰囲気が変わってんのはたかみなの方じゃないの?」

その様子を見ていた小嶋陽菜が話に入ってきた。
この人もいつの間にか愛称を使って自分を呼んでいる。

「ホントだ。たかみなの方こそなんか違うよ」

前田がうんうんと頷く。

「え? 私は見た目は別に変えてないですよ? 小嶋さんの方こそ変わりました? ちょっと大人な感じ」
「え……小嶋さん?」
「はい……あなたは小嶋さんで合ってますよね?」
「合ってるけど……その呼び方は何なの? なんか私悪いことした?」
「え……いや別にそんなことは……」

呼び方と言われても、そもそも小嶋とはそんなに話したことが無い。
愛称で呼び合う仲ではないはずだった。

さっきまで走り回っていた小動物の人、大島優子がポン、と小嶋の肩を叩いた。
「まだいい方だよこじぱ……私なんて丸ごと忘れられちゃったんだから」
「そうかあ。つらいよね……よしよし」

高橋はこの2人のことをよく知らないが、関係性は分かった気がした。

更新日:2011-12-14 17:46:25

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